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第205話

「コーヒーも買ってきた、帰ろ」 と、戻ってきたきょうへいは タバコの匂いがして 俺に買ってきた物を渡すと直ぐにエンジンをかけた 少し1人になった間におれは深呼吸をしたからか ようやく涙が止まって もうきょうへいに心配かけなくて済むようになった おれがヤナギさんみたいに仕事をできないから それできょうへいの役に立てないのが悔しくて、 きょうへいがヤナギさんを頼るのは仕方ないのに勝手におれがヤキモチを焼いて、 悔しくて、不甲斐なくて涙が止まらなくなった だからおれの問題なのに きょうへいはおれに謝って、 自分が悪いみたいにいうから、 どうにかするって きょうへいは全然悪くないのに、 きょうへいじゃなくておれがどうにかしなきゃいけないことなのに きょうへいが帰ってきたらちゃんと話そうと どうにか涙を止めて 待っていたけど 喋ろうとするとまた涙が出そうで ゆっくりと息をして耐えていた 帰ってからでも話せるから、まずは落ち着かなきゃいけない 気を紛らわせるように きょうへいが買ってきたものの袋の中を覗く 1個はスーパーの袋で ポップコーンが入っていた もう一個はカフェの紙袋で おれの分の甘いコーヒーと きょうへいの分のブラックコーヒーだ、 ブラックコーヒーは少し減っていて カフェでタバコを吸いながら飲んできたのかもしれない 『あれ?』 「どうかしたか?」 『あれは?ホットドッグ、』 「あ、あー、忘れた」 『あ、そっか』 忘れた 「コンビニ売ってるかな」 『いい、いらない、』 おれはきょうへいが作ってくれるやつが食べたかったんだ、 だからいらない、 「いいのか?」 『うん』 そう頷くけど喋ったから、 また涙が滲みそうになって 窓の外を見てゆっくり息をする きょうへい、疲れてるから忘れたのかも おれが、仕事できないから疲れてるんだ それなのに家でまでおれの世話なんてもうしたくないのかもしれない おもらしもおねしょもしなくなったから きょうへいに迷惑かけなくなったと思ったけど、 きょうへいはおもらしもおねしょも迷惑じゃないって言ってて おれがそういう風になんにもできない方が、きょうへいに甘えていた方がペットみたいに、扱いやすかったんだと思う なのに、それもできなくなったから あきらくんの言った通り もうおれはペットとしてもかわいくないし 一緒にいても扱いにくくて面倒ばっかりになって疲れるだけなのかもしれない 泣きたくないのにすぐ泣くし、 コーヒー、買ってこなくても 家に着いたらおれがいれるのに おれがきょうへいにできることなんてそれしかないのに きょうへいはきっとタバコを吸いたかったからカフェ寄ってコーヒー買ってきたんだ おれと一緒にいてイライラしたから タバコ吸いたくなったんだ、 「お前の膝の上」 『…ん?』 「すげえティッシュだな」 『止まらなかったんだもん、涙も鼻水も』 「よかった、止まって」 と、きょうへいは言った そうだよな、泣いてたらめんどくさいのなんてわかってる 「よし着いた、祈織持ってける?コーヒー」 『うん、』 と、湿ったティッシュをまとめて袋に入れて 買ってきてくれた物を持って車から降りると きょうへいはおれの荷物もまとめて持ってくれた 部屋に着くまでもおれは喋れなくて、 部屋に帰るまで無言だった、 『あ、おしっこしてくる、』 部屋に帰ると 急におしっこしたい事に気付いて 「あぁ、うん。しといで」 荷物を置いてすぐにトイレに行った 良かった、間に合ったと トイレでおしっこをするけど おもらしした方が良かったかもしれない その方がきょうへいに甘えられたのに、 でももうおしっこはちゃんとトイレに流れていて ちょろろ、と情けない音をさせて出し終わってしまった おもらし、しなかった、と トイレを済ませて手を洗って戻ると きょうへいの姿が見えなくて 『きょうへい、』 不安になってきょうへいを呼んだけどきょうへいは居なくて また泣きそうになったけど 「お、間に合った?」 と、きょうへいはベランダから入ってきて タバコを吸っていたのだとわかる 『きょうへい、』 「また泣きそうだな?間に合わなかった?」 『ま、にあったけど、きょうへいいなかったから驚いたじゃん、』 「…悪い、タバコ吸ってただけだから」 『…おれも、吸う』 「やめておけ。お前は吸わなくていい」 『やだ、おれも吸う。帰ったらおれの好きなことしていいって言ったじゃん、』 ちょうだい、ときょうへいの手からタバコをとっておれもベランダに出ると きょうへいももう吸い終わったはずなのに きょうへいも一緒に外に来てくれる 『火、つけて』 「…あぁ、」 火をつけてもらって きょうへいがやっていたみたいに、 前、少しだけ吸った時みたいに、 すぅ、とタバコを吸ってから 肺に入れるように少しだけ息を吸う 「ほら、やめとけ。まずいだろ」 むせそうになったけど 耐えて、もう一口吸う やっぱり、この煙はなんにもおいしくない こんな美味しくない煙吸うなら きょうへいが入れてくれたココアの方がずっとおいしい でも、泣きそうだった気持ちが少しだけ紛れた気がした 『きょうへい、これ吸ったら、うーばーいーつして、ホットドッグ頼も。それで映画観る』 「あぁ、そうだな、Uberするか」 『うん、』 本当はきょうへいが作ったホットドッグが良かったけど タバコ吸ったら我慢できる気がした きょうへいも、 おれの事どうしようも無くなった時とかタバコ吸って我慢してんのかな 「映画何見る?」 『こなん、』 「お前あれ好きな」 『うん、』 おれはあれ好きだけど きょうへいはそんな好きじゃないのかな 『きょうへいは、何観たい?』 「お前と一緒にコナン見る」 そうじゃないのに、 おれはきょうへいがおれが見たいやつ一緒に見てくれるのも好きだけど、 きょうへいの好きな物も一緒にみたいのに きょうへいはいいよっておれの好きなの見せてくれるけど そうじゃなくて、きょうへいの好きな物も知りたいんだけどな 『きょうへいがおれと一緒にみたいやつないの?』 「いや、祈織の好みに合わなかったら暇しちゃうだろ?」 『…、それは、』 別にいいのに、 おれの好みなんて、 きょうへいの好きなのを共有したいのに 『なんでわかってくれないの?』 「なにが、…祈織の好みの映画?」 『…ちがくて、…でも、』 「…ごめん、お前のこと分かってやらなくて」 『…謝んな、おれのわがままだから』 きょうへいに謝られたくない、 謝られたら諦められた感じがする 「ごめんな、祈織」 『だから、』 謝んなって、 謝らなくていいから きょうへいの好きな物教えて欲しいのに

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