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第2話

 もじもじと衣服を緩める手が、緊張でほんの少し震える。  青葉はナオの主治医であり、同時に養育者でもあるアルファ男性だ。  年は三十二歳、独身で、大学に独自のラボを持つ医学博士だが、二年前からナオをアップタウンにある自宅に住まわせ、面倒をみてくれている。  オメガは発情期がある関係で、年頃になると政府施設で保護されて暮らす者が多い。  しかし、家庭での養育が最適であると「ジュピター」に判定されたオメガをアルファの家庭で引き取り、後見人となって育てるという、政府の福祉プログラムがあり、ナオはその施策によって青葉の家に引き取られた。  五年前、ナオは幼少時から養育してくれていた祖母を亡くして孤児となり、政府による保護を求めて首都、新東京へ出てきた。その折に街なかで激しい発情――ヒートを起こしてしまい、保護されたのだが、そのとき最初に診察をしてくれたのが、青葉だったのだ。天涯孤独の身の上のナオにとって、今ではもっとも親しい人物だと言える。  彼に引き取られてから、ナオはアルファ、ベータ、オメガという、人間の新しい種のカテゴリーについてきちんと学び、発情フェロモンの数値もしっかりと管理できるようになったおかげで、とても安定した生活を送れるようになった。  保護施設時代から、意識潜行型の人工現実(VR)システムを使って通っていた高校も無事卒業でき、今は聴講生として大学のVR講義を取っていて、将来は海洋生物についての勉強をしてみたいと思っている。  そんな、至って平穏で静かな毎日を送ってはいるのだけれど、このところ少しばかり、青葉との暮らしに変化が生まれていて――――。 「……おや、ナオのここ、こんなふうになっているよ?」 「あっ……、す、すみ、ませっ」 「謝ることじゃないさ。ここがこうなるということは、きみの体がこれから起こることを察して、いち早く反応しているということだ。それはとても、いいことなのだよ?」  優しく諭すみたいな青葉の言葉はこともなげだけれど、ナオとしてはとても恥ずかしい。 「ジュピター」による週に一度のメディカルチェックのあと、青葉に「触診」をされるようになって、ふた月ほど。  条件反射というやつなのか、今では青葉の前で全裸になっただけで、ナオの肢の間のものは知らず頭をもたげてしまう。  青葉からは、「触診」は来るべきアルファとの婚姻のときに備えるための、性教育の一環だと言われているし、いたたまれない気持ちになる必要など、本当はないはずなのだけれど。 「じゃあ触れていくよ、ナオ。何か不快に感じたら、すぐにそう言いなさい」 「は、い……、ん、ンっ……」  ベッドに横たわった体に手で触れられ、ビクリと背筋が震える。  他人の温かい手の感触は、いまだに新鮮だ。  ナオは五年前まで、人里離れた山奥で祖母と二人きりでひっそりと暮らしていた。  両親はナオが二歳のときに事故で亡くなったので、ナオは顔も覚えていない。  小中学校にはVRで通っていたが、政府施設や公認された家庭での養育でなく、ただの個人宅での生活を許可されている代わりに、他者との直接的な交流は一切許されていなかった。  その後三年間暮らしていた保護施設でも、収容されているオメガ同士の接触はなるべく避けるよう言われていたから、ナオは誰かに体を触られることにまったく慣れていない。  濃密な性的接触の経験などももちろんなかったから、本当のところ何が「不快」なのかも、自分ではまだよくわかっていないのではないかと思う。  でも、ナオはこれに慣れなければならない。  なぜならそう遠くない将来、ナオの「運命の番」が決定されるからだ。 「……っ、あ!」 「ここ、気持ちがいいかい?」  淡いピンク色の乳首に指先で触れながら、青葉が訊いてくる。  そこはキュッと硬くなって、とても敏感になっている。  子供を産めば乳を飲ませることになるからと、「触診」のたび乳頭を柔らかく揉むようにまさぐられているのだが、青葉が言うように「気持ちがいい」のだと気づいたのは最近だ。  そしてそれを自覚するだけでナオの下腹部はジンと熱くなって、もたげた自身の切っ先からは透明な蜜のような液体がトロリと溢れ出てくる。  子を孕むオメガ子宮へと続く内腔も知らずヒクヒクと震え始め、後孔もピクンと疼く。  無垢だったナオの体は、青葉の手によって、成熟した大人のオメガの肉体へと変化し始めているようだ。 『オメガは人類の希望。おまえは人を愛し、子を産み育て慈しむために生まれてきたのよ』  生前の祖母が、繰り返しナオに語りかけていた言葉だ。  幼い頃は何やら大げさに聞こえたが、歴史を学んだ今では、そんなことはないとわかっている。オメガだけでなくアルファもベータも、人類の希望であることは間違いない。

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