4 / 9
第4話
自分は青葉に恋をしているのではないかと、そう気づいたのは、「触診」されるようになってしばらく経った頃のことだ。
そうされる前から好意を抱いていたのか、それとも彼に与えられる悦びによって心に何か変化があったのか、正直なところナオにはよくわからない。
けれど、いつの間にか青葉と過ごす日常の些細な場面が愛おしく感じられ、やがてそれまで過ごした時間までもが甘く彩りを変えた。
朝起きて青葉の顔を見たときや、朝食のパンの香りを嗅いだとき。長く離れている時間も、遅い時間に帰宅した青葉にお帰りなさいと声をかける瞬間も。
ナオは青葉を心から恋しく思い、彼の傍にいられる嬉しさで泣きそうにすらなる。
こうして「触診」されれば体は歓喜で熱くなり、もっと触れてほしい、どこまでも気持ちよくしてほしいと素直に思う。
いっそ青葉と番になって彼の子供を産めたらいいのにと、心の奥底でそんな願望までも抱いてしまっているけれど、「ジュピター」に婚姻を厳格に管理されたこの社会では、そんな夢が叶うはずもない。
だから彼の前で何もかも曝け出すことなど、ナオにはできない。切なく苦しいけれど、この想いは黙っているほかないのだ。
「……ぁ、あっ」
窄まりに青葉の指先が触れ、知らず声が洩れる。
ぬるりとした感触からすると、そこはもう甘く潤んでいるようだ。柔襞を優しく撫でて、青葉が言う。
「ナオのここ、触れなくても濡れて、花みたいにほころぶようになってきたね。ほら、こんなに柔らかくなっているよ?」
「は、あっ、んん……!」
くちゅ、と微かな水音を立てて、青葉の指が後孔に沈み込む。
青葉の言うとおり、そこはしっとりと潤んで、中は熱く熟れたようになっている。
アルファの生殖器を受け入れるため、ナオの窄まりはほどけ、内腔はひたひたと濡れる。二本目の指を難なく挿入しながら、青葉が言う。
「きみの体はとても素直だ。これなら明日にでも結婚できるね」
「そ、な、こと……」
「きみの伴侶となる人は、どんなアルファなのだろうね? きみにふさわしい、優しく知性的な人だろうか?」
「は、ぁっ、んん、うぅっ」
中の具合を確かめるみたいに、二本の指で内壁をまさぐられ、腰がビクビクと跳ねる。
雄蕊だけでなく、ナオの後ろも、とても感じやすい場所だ。
最初は過敏なだけだと思っていたのに、青葉に何度も触れられ、丁寧に開かれていくにつれ、快感を覚えるようになってきた。
中でもお腹の側にあるとある一点は、まるで――――。
「ああっ! あ、ン、そ、こっ」
「ここ、いい?」
「は、いっ、そこっ、とてもっ、ぁあっ、んふぅっ、ううぅ……!」
鮮烈な悦びに声が上ずり、はしたなくお尻が震える。
内腔の中ほどにあるほんの小さな窪みは、まるで快楽の泉のようだ。青葉が指の腹でなぞるだけで、視界がチカチカするほどの強い快感が四肢の先まで駆け抜ける。
優しく撫でられ続けると、まともにものも考えられないくらい気持ちよくなって、お腹の底が爆ぜるみたいな強く大きな絶頂に達してしまう。
「きみは本当に素直な、いい体をしている。今すぐここに番の雄を繋がれても、十分に受け入れられると思うよ。感じるここを切っ先でなぞられたら、きっとそれだけで何度もオーガズムに達して、啼き乱れてしまうのだろうね」
「先、生っ」
「私は楽しみだよ、ナオ。きみが『運命の番』と愛し合い、身籠るのが。今はまだ薄いお腹がゆっくりと大きくなって、やがて月満ちて赤子を産み落とす日がくるのが。だってきみは、もう私の家族みたいなものなのだからね」
「あっ、ぁあっ、せんせっ、青葉、せんせぇっ」
二本の指で窪みをまさぐられ、ぬちゅぬちゅと肉の襞をかき回されて、幼子みたいな声で喘いでしまう。
ナオの後ろはもう蜜壺みたいにトロトロになっていて、青葉が指を動かすたびにくちゅくちゅと淫靡な水音が立つ。
屹立したアルファの生殖器というものが、どれほどのボリュームなのか、想像するしかないけれど、きっとナオのそこは柔軟にそれを受け止めるのだろう。そうして子種を授けられ、子を孕む。
でもその相手は、目の前の青葉ではないのだ。
(好きっ……、先生が、好きっ……!)
こんなに恋しく思っているのに、その気持ちだけでは結ばれることができない。
それはとても哀しい、けれど決して逃れることのできない、この社会に生まれた宿命だ。
――――「絶対運命婚姻令」。
俗にそう呼ばれているこの国の婚姻管理法に従い、ナオと結婚して体に触れ、子を孕ませるのは、まだ見ぬアルファなのだ。
「はっ、ぁあっ、達、くっ、また、ぃっ、ちゃっ……」
雄蕊の先からトロトロと白蜜を溢れさせながら、ナオが再び達き果てる。
「ジュピター」がナオの婚姻相手を決める日が、どうか一日でも先になりますように。
ぼんやりそんなことを祈りながら、ナオは快楽の頂をたゆたっていた。
ともだちにシェアしよう!