4 / 88
第4話
決心してここまで来たものの、プレートに書かれた文字を見るとどうしても後ずさりしたくなる。
『生徒会室』
悠星と堺はその扉の前に立っていた。そして未だに堺は俺の腕を掴んだまま。来る途中何度も何度も離してくれと言ったが、その度に駄目だと言われ続けたので悠星は諦めた。
堺の手がスッとドアに伸び、軽く2回ノックをすると、中から聞こえて来たのは式典で聞いたのと同じ声。
「どうぞ」
その艶を含んだ声に、思わず身震いする。堺の後に続いて...というか腕を引かれて悠星は前へ進む。恐る恐る中へ入ると、そこは会議室の様だった。コの字に並んだ長机に椅子。またサイドの棚には沢山の資料が綺麗に並んでいた。
部屋の中の様子を見渡している頃には、堺の手は腕を離れていた。そしてこの中心にドアとは対極にある、真正面の椅子に座っている1人の人物。逆光でよく分からないが、恐らく整っているであろう容姿に目がいく。
逆光の中にあるそいつがゆっくりと口を開いた。
「久しぶり」
何度も聞いた懐かしい声にビクッと肩を震わせ、思わず一歩後ずさる。
その長い指にスッとこちらを見据える瞳。一つ一つが俺のものとは違う。本当に同じ人間なのだろうか。
そんな事に思いを巡らせていたら、もう一度その口がゆっくりと動く。そして艶のある唇から紡がれたのは。
「悠星」
自分の名前だった。まるで耳元で囁かれているみたいなその声に、身体全身にビリッと電気が流れた気がした。
何か言わなきゃ。
でもあいつに見られてると、まるで心のうちまで見られているようで思うように声が出ない。
数回の口パクをした後、やっとの思いで悠星は声を出した。
「...何の用だよ」
さっきの放送の時からずっと思っていた事だった。
「久々の再会だよ?ゆっくり話したくて」
雅樹はそう言って悠星の元へ歩いて来た。歩き姿までもが絵になる姿に思わず見惚れかける。ニコニコと、まるで悠星に会えるのが本当に嬉しいみたいに。今更そんな態度取るんじゃねーよ。
「俺は話す事なんて何もない」
「まぁまぁそんな事言わずにさ」
雅樹は少し困ったような笑顔をしてくる。
だがその宥めるような扱いをしてくるのも気に入らない。
「そんな無駄な話をするために呼んだのか?なら帰る」
お前に割ける時間なんて少しもねぇよ!
そんな毒を心の中で吐きながらドアの方へ向かった。
しかし。
ともだちにシェアしよう!