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第5話 ※
「...あの」
「...」
「そこ、どいてくれませんか?」
そう問いかけるが、堺がドアの前に立っていて一向に動こうとしない。
「俺帰りたいんですけど」
全くどくつもりがない彼にイライラがますます募る。俺らの睨み合いが続く中、後ろからふふっと笑い声が聞こえた。その声に振り返ると、雅樹がこちらへ歩いて来ていた。
「さすが亮介。分かってるね」
「言っとくが俺は肯定してないからな」
「でもお前は既に共犯者だ」
雅樹の悪い笑みに堺先輩はスッと目を細めた。
「...知ってる」
彼の返事にますます笑みを深くした雅樹は、対象を変えた。ゆっくりと、俺のいる所へ近づいて来る。一歩一歩の足音がやけに大きく耳に響いた。
俺は、雅樹から、そして堺から距離を取るようにして遠ざかる。一歩、また一歩と遠ざかって行った先は。
「忘れたなんて言わせないよ」
カツンと踵が壁に当たる。雅樹の顔が目の前にあった。足の間に膝を入れられ、両手はそれぞれ頭の横の壁につかれる。
「お前は、俺のモノ」
真っ直ぐに、正面からその言葉を受けた瞬間。雅樹との距離がゼロになる。唇に温かい感触がした後、顎をガッと掴まれ、無理矢理口を開かされた。
「んんっ!!」
ニヤッと笑った雅樹の舌が口内を暴れ始めた。
懐かしい、屈辱の味。
――――一番最初に覚えた、キスの味。
「んっ、ぅんんっ...」
上顎を撫でられ歯列をなぞられ、ゾワゾワっとした何とも言えない感覚が身体を駆け巡る。
空いてる左手で顎を掴む手を離そうとするが、力が抜けてしまいそれも上手くいかない。しかも側から見ればもっとと縋っているようで。
「んんっ!...ぅん、んむっ、ん...んちゅ、んんんぅ...」
その様子に雅樹は気を良くし、更に深いキスへと変えていった。
もう息が続かない...
頭に靄がかかってきた所で、ゆっくりと口が離された。2人を繋ぐ銀の糸を舐め取られる。力が抜け、思わず雅樹に寄りかかる。
「ふふっ、気持ちよかった?」
「...るせぇよ......何がしたい、んだよっ」
呼吸をするのがやっとで上手く思考が回らない中、精一杯の怒りを込めて、キッと雅樹を睨みつけた。しかし雅樹はさらに笑みを深めただけ。
そして、視界がぐらっと傾くと同時にいきなり訪れた浮遊感。
「ちょっ...降ろせ!!!」
俺は雅樹にお姫様抱っこをされて部屋の隅に連れて行かれた。
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