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第9話

次の日。悠星が教室へ入ると翔太が一番に声をかけてきた。 「悠星!昨日は大丈夫だったか⁉」 あまりの必死さにぽかんとしてしまう悠星を見て、翔太は苦笑いをした。 「ああ、いや、ごめん。悠星、行くの嫌そうにしてたから不安で...」 「そっか。心配させてごめんな?昨日はただの昔話で終わったよ」 「ああ、幼馴染...なんだっけ」 「うん」 ようやく翔太は安心したように笑った。 初日の初日から色々あったけど、やっと高校生活が始まるんだ。 何が何でも平穏を死守するぞ!! 「翔太!飯食おう」 「うん」 悠星は鞄から弁当箱を出し、翔太の机に置く。2人は席が前後なので、お昼は一緒に食べることが多かった。 悠星が弁当箱の蓋を開けると、翔太がまじまじとその中身を覗いた。 「...毎度思うけど、悠星の弁当って豪華だよな」 「いや、これ割と簡単だよ。半分は昨日の残り物だし」 「ふーん...え、弁当自分で作ってるって言ってたよな⁉晩御飯も自炊ってこと?」 「ああ...親があんま家にいないからね」 悠星の両親は共働きで、昔から家を空けることが多かった。仕事から帰ってきて疲れている両親に寂しいとは言えず。静かな家に居るのが嫌でテレビを付けたり料理を作ったり掃除をしたり。そんなことをしているうちに家事は一通りできるようになっていた。 だから、そんな時期に出会った雅樹との日々は、本当に本当に楽しかったのだ。 「これちょーだい」 「!!」 その時、後ろから手がにゅっと伸びて来て、悠星の卵焼きをかっさらっていく。 「ん。美味い」 悠星が後ろを振り返ると、犯人――雅樹が笑顔で卵焼きを味わっていた。 「雅樹!俺の卵焼き!返せ!!」 「え?口移し?」 「汚ねえ!!」 こんな風にぎゃいぎゃい言い合う姿は、最近このクラスの名物らしきものになっていた。 というのも、週に何度か、雅樹と堺が悠星のクラスにやって来るのだ。 「堺先輩...お疲れ様です」 「いや...俺らの方こそ悪いな」 雅樹と悠星を見ながら、巻き込まれた二人は苦笑いを零した。 入学式当日。あんなに顔色を変えて雅樹を嫌っていたとは思えないほどに二人は仲が良さそうだった。悠星は雅樹を邪険に扱っているがどこか態度は柔らかい。雅樹は悠星しか目に入らないとでも言うように甘やかしたい思いがにじみ出ている。 翔太はますますこの二人の関係が気になるのであった。

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