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第11話
「よし、出来た」
今回も中々な出来栄えに、悠星は笑みを溢した。
あの日――弁当を作ると約束した日から数回目の日曜日。二つ並んだ弁当箱は悠星の日常となりつつあった。
日常と なりつつ あった ???
目の前の弁当箱をじっと見つめる。
...知らない。俺は知らない。食材にも罪は無いから包むだけで、俺は、何も...
というか!この週1の弁当のおかげで俺の平穏な日々は保たれているんだから!
そのために俺は今弁当を作ってるんだから!
それ以外の理由なんか一つもないから!!
次の日。
4時間目の終了の鐘が鳴り、一気に教室内が騒がしくなった。悠星はおもむろに2つの弁当箱を机に置く。既に準備が出来ていた翔太は席を立っていた。
「行こうか」
「...行くか」
ため息をつきながら席を立った悠星を見て、翔太はくすっと笑った。
「何だよ」
「いや、最初の時とは態度が違うなあって」
「は?」
「だって前なら全身で行きたくないって言ってる感じだったのに今はそうでもなさそうだから」
「!!」
――そう。翔太の言う通り、始まったばかりの頃は、弁当を作ってはため息をつき、昼休みになればため息をつき、弁当を机に置けばため息をつき、雅樹の顔を見れば引き返したくてたまらなくて全身で「嫌だ!!!」と叫んでいたようなものだった。
「そ...それは、翔太も付き合ってくれてるんだし、食材に罪は無いし、逃げられないならさっさと済ませた方がマシだから...!」
悠星の焦った声に翔太はまた笑う。その声に反論しながら、2人は屋上へと向かった。
屋上の扉を開けると、既に雅樹と堺が座っていた。2人は悠星達を見つけると笑顔で手を振ってきた。これも、日常になりつつある光景だ。ちなみに、雅樹達の到着の方が早いのは、3年の教室の方が屋上に近いからだ。
「悠星!今日は何が入ってるの?」
「見りゃ分かんだろ」
雅樹が悠星に声を弾ませて問いかける。それを冷たくあしらう。いつもの光景だ。
今日の弁当は、卵焼きにプチトマト、そぼろご飯とほうれん草の胡麻和え、あとは昨日の残り物を詰め込んだ。
いただきます、と丁寧にあいさつをして雅樹が食べ始める。
「美味い!悠星やっぱ嫁に来て」
「無理」
「えー、胃袋はもう掴まれてるのに」
雅樹が優星の弁当を食べて、本当に嬉しそうにお礼を言って、軽口を叩く。
「なあ、俺にも一口くれ」
と堺が言えば、
「無理、悠星の愛はお前にはやらん」
と本気で雅樹が拒否して、そうは言ってないと堺が怒る。その間に悠星にねだった翔太がおかずを交換していてなぜか雅樹に怒られる。
それに悠星が言い返し、雅樹が拗ねる。
そんな”日常と なりつつ あった” 光景を、悠星は見て見ぬふりをする。
食材の為だから。平穏な日々の為だから。
仕方なく、だから。
この時間がもっと続けばいいとか、
そんなの、絶対、思ってない。
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