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第15話

「...い、悠星」 「ん...」 肩を揺すられ目を開けると、目の前に雅樹がいた。 「起きろって。下校時間だぞ」 「うわあああっ」 悠星は思いっきりのけぞった。いつの間にか掛けられていたひざ掛けで雅樹から体を隠す。 「そんなに引かなくても。傷つくなぁ」 「う...うるさい!近すぎるのが悪いんだ!」 さっきまで変な夢を見ていたせいで、雅樹の顔をまともに見られなかった。 夢の中とはいえ、あんな、あんな...!!! 穴があったら入りたい。 悠星は更に顔までひざ掛けで覆った。 「はいはいすいませんね。で、これでしょ?」 雅樹が空の弁当箱を悠星に差し出した。 「今日一緒に食べられなくてごめんね。美味しかったよ」 雅樹はにっこりと微笑みながら悠星へ弁当箱を渡す。 悠星は雅樹と弁当箱をじっと見た後、それをひったくってソファーから飛び降りた。 「あ...あっそ。そんな事知ってるし。つか俺は自分の為に作ってるだけだから」 「うん。来週も楽しみにしてる」 その笑顔が優しくて。嬉しそうで。見てると胸がムズムズしてきてモヤモヤして。 「知らねー!」 胸の変な感じには気付かないようにしながら、悠星は足早に扉へと向かった。 「一緒に帰ろうよ」 扉に手をかけた背中に雅樹が声をかけたが、悠星は振り返らなかった。 「無理!」 扉を思い切り開けながら吐き捨てるように悠星が叫ぶ。 そのまま出て行こうとしたが、ふとあることを思い出して立ち止まった。 「悠星?」 悠星が雅樹の呼びかけに応じることはなかった。 その代わり。 「...ひざ掛け、ありがとな。あと、畳むの忘れた。ごめん」 ちらりと雅樹を見ながら静かに告げて、悠星は扉を閉めた。 一人残った生徒会室で、雅樹は破顔した。 彼の眼には、悠星の冷静さを保とうとしていたが完全に保ててはいなかったちょっと上ずった声も、赤くなっていた耳も少しとんがった唇も、全てを捉えていた。 下駄箱へ向かう途中、悠星の頭に(よぎ)ったのはさっき見ていた変な夢の事。 頭を撫でる優しい手つきや、抱きしめられた時の温かさ。 そして何より、「悠くん」と呼ばれた懐かしい声音が耳に残っていて。 ぶんぶんと(かぶり)を振って、帰り道を急ぐのだった。

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