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第19話

「ここ」 そう言って翔太が連れてきたそこは、駅のすぐ近くだった。しかし表通りに店があるというわけではなく、細い路地を入った所にひっそりと佇むようにあった。 店の外観は古くはなく、でも新しくもなく。レンガ作りで店先にはいくつかの植物の鉢植えがおいてある。 「おー!確かに隠れ家っぽい。知らなかった」 「俺も。店長さんが兄ちゃんの高校の先輩なんだと」 「へー」 「俺も喋ったことあるけどいい人だよ。行こ」 扉を開ける翔太に悠星も続いて中へ入った。 「いらっしゃいませ」 中から聞こえて来た声に悠星はピクッとする。 え、なんでここに? …いやまさか。聞き間違いだろ。 最近呼び出されなかったからって勘違いするんじゃねーよ俺… 様々な否定の思考を頭に浮かべたが、期待は(ことごと)く裏切られた。 「こんにちは、深月さん」 翔太が店員へ挨拶をした。ワイシャツにスラックスを身に付け、こげ茶のギャルソンエプロンを身につけた男がこちらへ向かってにこりと微笑む。 「こんにちは。翔太くん久しぶりだね」 「あぁ、部活忙しくて」 「サッカーだったよね?」 「はい」 2人が話している間、悠星は俯いて翔太の背中に隠れていた。 「頑張ってるんだね」 「いやぁ、…まぁ」 まんざらでもないと翔太が照れ笑いを浮かべる。そこで漸く、深月が悠星へと目を向けた。 「翔太君、その子は…」 深月に言われ翔太が振り返る。自分の影に隠れるように俯く悠星に少し疑問を持ちつつも、深月に紹介した。 「悠星です。高校で同じクラスなんですよ」 翔太に紹介され、悠星はおずおずと顔を上げた。深月はニコニコと笑みを崩さなかったが、舐めるようなその視線はこちらの全てを見透かす様で、自分の心臓がドクドク鳴る音が余計に聞こえた。 「た…田口悠星です」 「長谷川深月(はせがわみつき)です。ここの店長やってます。翔太君みたいに深月さん、って呼んでいいからね」 「あ…どうも」 軽くペコっと頭を下げる。悠星の知ってる”深月”とのギャップが激しくて、どういう対応をするのが正解なのか分からなくて、かなりたどたどしくなってしまった。 「じゃあ、お席にご案内しますね」 悠星と翔太は、窓側の4人席に連れて来られた。2人が席につき、深月がレモン水とメニューをテーブルの上へ置く。 「注文が決まりましたらお呼びください」 深月はそう言って軽く頭を下げると、カウンター内へ戻っていた。その後ろ姿を見ながら悠星はそっと安堵の溜息を吐いた。

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