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第20話
写真付きのメニュー表にはどれも美味しそうな料理が載っていた。2人は悩んだ挙句、悠星はナポリタンを、翔太はビーフシチューを頼んだ。どちらもサラダとスープのセット付きだ。
「…悠星」
料理を待つ間、翔太が恐る恐るといった様子で悠星に話しかけてきた。
「ん?」
「嫌だった?」
「え?何が?」
翔太がチラッと深月のいるであろうカウンター内に視線を向ける。
「なんか難しい顔してるから」
「ああ…」
深月が注文を聞きに来た時、悠星は彼と目を合わせようとせず、声のトーンも無意識にほんの少しだが暗くなっていた。いつもと違う悠星の様子に、翔太は不安を覚えたのだ。
「違う違う。この店が悪いとかじゃなくて…深月、さん、ちょっと知り合いに似ててさ」
「知り合い?」
「そ。それもあんま仲良くない人」
悠星はそこでカラッと苦笑いをして見せた。彼の表情の陰りが消えて、翔太は安心した。
「そうだったんだ」
「うん。ごめんな心配させて」
「ううん。でもそれは災難だな」
「ほんとだよ。全く別人なのにな」
―――本当に別人だったら良かったのに。
そんな心の声に悠星は耳を塞いだ。
「そういえば翔太さ、スパイク見てるときなんか聞こうとしてなかった?」
「そうだっけ?」
「うん。言いたくなかったら言わなくてもいいなんて言うから逆に気になって」
「……あー…」
少しの間考えた後、今度は翔太の顔に陰りが見えた。彼は歯切れ悪く、言葉を紡ぐ。
「陸上、なんでやんないのかなって」
「え」
「ほら、中学3年間やってたんだろ?高校でもやらないの、なんでかなって思って…」
「…」
悠星は黙ってしまった。翔太の質問を不快に感じたからではない。どう言葉にすればいいのか迷ったからだ。
「悪い、好奇心で聞くようなことじゃないよな」
悠星はじっと翔太の顔を見る。翔太は本気で申し訳なさそうにしていた。
単に好奇心で聞いているだけには見えなかった。
今まで出会って来た、平気で人の中に入って来て荒らすだけ荒らしていくような、無遠慮な奴らとは違う。ちゃんと引き際が分かるし、悪いと思ったらきちんと謝ってくる。
…翔太なら、話してもきちんと受け止めてくれるのではないか。
悠星は、もう一度翔太の顔を見据えた。
「…翔太って、見た目によらずちゃんとしてんのな」
悠星の笑いを含んだ返答に、翔太は驚いた。
「見た目によらずってなんだよ」
「お前の事、最初ただのチャラ男だと思ってた」
翔太はチャラ男チャラ男言われてムッとしなかったわけでは無いが、余計に反論せず話を促した。顔には出ていたが。
「…今は?」
「いい奴」
「…!」
明らかに嬉しそうになる翔太を見て、悠星はもう一度笑った。
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