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第21話
悠星が話し始めようとしたその時。
「お待たせしました」
深月がナポリタンとビーフシチューを持ってきた。
「美味そ~」
翔太の言う通り、皿に盛られた熱々の料理は本当に美味しそうで、悠星のお腹がぐるるるると鳴った。
結構大きな音に焦った悠星は必死にお腹を押さえたが、逆に更にもう一度お腹が鳴った。
もう顔を真っ赤にして俯くしかなかった。
そんな悠星の様子に、深月は愛 おし気に微笑み、ふふっと笑った。
「二人の分は特別に少しボリューム足してるからね」
「マジっすか!」
翔太のキラキラした目を見て深月はまた笑った。
「うん。いっぱい食べてね」
深月はにこにこしながら去って行った。
彼が去ったのを横目で確かめてから、悠星はようやく顔を上げる。
「先に食べてからにしようか」
「………あー…」
顔を覆い耳まで赤くする悠星を見て、翔太は笑いながらスプーンを手に取った。
料理は本当に美味しかった。パスタソースはコクがあってまろやかだったし、オニオンスープも玉ねぎがとろっとしていて何杯でも飲めそうだった。翔太の頼んだビーフシチューも一口貰ったが、牛肉が口の中で溶けるくらい柔らかくてめちゃくちゃ美味しかった。
そしてお互いの料理が半分ほど減ったところで、悠星は恐る恐る話を切り出した。
「さっきの…部活の話だけど」
「うん」
翔太も食べるペースを落とし、悠星の話に耳を傾ける。
「部活は楽しかったんだよ。夏とか冬の走り込みは相当キツかったけど、まあ元々走るの好きだったし。部活のメンバーとも結構仲良かったし」
「種目何だったの?」
「長距離。…自分のペースで色んなところ見ながら走るのが好きでさ」
目的も決めず、走りたいところを淡々と走る。見える景色も、感じる風もいつも違っていて。気付けば遠くまで来ていることに気付いた時、なんだか自分のことが誇らしくなったことを覚えている。
そこで悠星は静かに息を吐き、フォークを置いた。
「中3年の大会で…、地区大会の決勝で、負けたんだ。…俺、悔しくなかったんだよ。それどころか、ああ、ようやく終わったのか、って」
走り終え、客席から歓声が飛ぶ。悠星の前を走っていた選手は嬉しそうにガッツポーズをしていた。彼以外の負けた選手は、皆それぞれに悔しそうな顔をしていた。
その中で、悠星だけが何の感情も出していなかった。
ただ一人、競技場の中で静かに佇んでいた。
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