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第23話

誰かにただ聞いて欲しかったのかもしれない。気付いた時のショックも、試合が終わった瞬間の肩の荷が降りた感覚も、今までずっとずっと悠星は自分の中に抱え込んできた。 否定もせず肯定もせず。 翔太のその態度は、他の人からしたら冷たく映ったかもしれない。 しかし悠星からしたら、ありのままの自分を受け入れて貰えた気がしたのだ。 暫くして涙が落ち着いた悠星は、一つ気になった事を翔太に聞いた。 「…翔太はさ、部活辞めるの勿体ないとか、続けてみなきゃ分からないとか言わないの?」 一瞬目を丸くした翔太だったが、すぐに柔らかい表情に変わって話し出した。 「俺、兄ちゃんがいるって話したじゃん?兄ちゃんは中高バスケ部だったんだよ。毎日部活三昧の日々で、俺から見たら凄く充実してるように見えたんだ。…単に兄ちゃんの一面しか見てなかっただけなんだけどな」 ほんの少し寂しそうな翔太の顔をじっと見てしまう。 「俺が高校入った時、部活どうすんだ、って聞かれた。迷わずサッカー部だって答えたよ。それ以外の選択肢なんて考えたことも無かったし、俺はサッカーが大好きだから」 翔太は先ほど買ったスパイクに目を向けた。一瞬前の寂しそうな顔はもう無い。とても嬉しそうな、愛おしそうな表情をスパイクに向けた。 「そしたら兄ちゃんが、『頑張れよ、好きなものをやるのが一番だからな』って」 その時の兄の顔を、翔太は覚えている。ほんの少し寂しそうにしていた。 「兄ちゃん、大学でバンド組んでてさ。今はもう就職したけど音楽は続けてるんだ。もともと音楽は好きでいつも聞いてたし、家にもCDとかめちゃくちゃいっぱいあるし。…今の方が、楽しそうなんだよな。部活やってた時は苦しそうな顔の方が多かったけど」 悠星は、再び翔太と目が合った。翔太はまた一瞬寂しそうにしたが、すぐ笑顔に変わった。 「悩む兄ちゃんに何もできなかったのが悔しいし、俺のサッカー楽しんでる姿が逆に苦しめたのかなとか考えることもあったけど、でも兄ちゃんが好きなものを見つけれてよかったなと思う。上から目線のつもりは全くないんだけど…なんか嬉しくて」 ははは、と翔太は照れ笑いを零した。 「だから、好きなことをやったらいいと思う。もちろん、無理に探す必要もないと思うけど。…本人次第じゃないかなって」 「…そっか。…そうだな」 俺にも何かやりたいことが見つかるのだろうか。 今はまだ、手探り状態だ。 でも今後、笑って好きだと言えるものが見つけられたのなら。 …とても楽しそうだなと思う。 「…やっぱり翔太いい奴だな」 悠星はしみじみと呟いた。 「当然だろ」 翔太が決め顔をしてかっこよく答えた。 どちらからともなく二人は笑った。

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