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第24話
その後、互いの食事も既に終わっていたので、二人は店を出ようと席を立つ。レジでは深月が会計をしてくれたが、悠星はその時もやっぱり深月を見れなかった。
「また来てね」
「はい!是非」
翔太と深月が交わす会話を、悠星は翔太の後ろで聞いてた。そして会計が終わった時、深月がレジ内から出て悠星の顔をそっと覗き込んだ。
「えっと…悠星君、だっけ」
「はっ、はい」
深月に声をかけられ慌てて顔を上げると、彼は少し寂しそうにしていた。
「ごめんね、馴れ馴れしかったかな」
「い、いえ!違うんです、その…」
何といえばいいのか。言葉を選んでいると、翔太が横から笑いながら言った。
「悠星の知り合いに似てるんだって、深月さん」
「へぇ」
「それもあんま仲良くない人」
「!!!」
それ言っちゃうのか!!!
まさかその知り合いが深月本人だと言う事が出来ずにいた弊害がこんな所に出てしまった。
悠星は恐る恐る深月の顔を見ると、彼は静かに笑っているではないか。
「そうだったんだ」
「い、いや、でも全くの別人なんで!!!深月さんは悪くないです。すみません…」
悠星は肩を窄めた。
その様子を見て、深月はふふっと笑った。
「まぁ、気が向いたらまた2人で来てよ。いつでも待ってる」
「ありがとう、ございます…」
悠星はせめてもの愛想笑いを返し、店を出た。
「悠星、挙動不審すぎ」
「いやだって…!」
「焦り具合笑える」
ははっと翔太が笑い声を上げた。
「わっ、笑うなよ!!」
悠星が軽く手を振り上げ、逃げる翔太を追いかけた。
そんな2人の様子を、店の奥に座る2人の人物がじっと見ていた。そのうちの1人は尾行に付き合わされていた為、今日何度目かのため息を吐いていた。
スポーツショップの横を過ぎた時たまたま悠星達を見つけた。その場で雅樹に尾行を開始を宣言され、亮介は買いたいものをゆっくりと見る事も出来ず現在に至る。
悠星の居ない空間に用はないと、雅樹が立ち上がる。2人はレジへ向かった。
「ありがとうございました」
店を出た亮介は、悠星達の去った方向へ視線を向けた。
「おい、見失うぞ」
亮介は悠星達を追おうと足を進めたが、雅樹が動こうとしない。振り向き問いかけた雅樹の顔には笑みが浮かんでいた。
「もう尾行はいい」
「なんで」
「見つけたから」
「は?何を…」
雅樹はもう一度店へと視線を向ける。
「俺の悠星を奪おうとしてる奴」
その言葉に込められた苛立ちの大きさを知ってか知らずか、店の外に出て行く彼らを深月もじっと見つめていた。
「アイツか…」
深月の独り言が雅樹に聞こえることも、雅樹と深月の視線が絡むことも無かった。
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