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第27話 雅樹side

悠星の去って行く背中をじっと見つめながら、雅樹は悠星と深月の繋がりを確信した。 昨日、悠星達を尾行していた時の事。カフェに入った悠星は深月を見たとたん、明らかに顔がこわばった。しかもそれは会計をして店を出る時も変わらなかった。ただ深月は終始笑みを絶やさなかったので、悠星が一方的に敵視していたことになるのだが。 2人の間に流れるどこか異質な空気に違和感を覚えた時、雅樹の頭にはある出来事が過った。 悠星と雅樹が今の関係になる決定的な出来事が起こった日の翌日。 当時中学生だった悠星が無断で朝帰りをしたらしい。 放課後家に帰った時その事を母から聞いた雅樹は、急いで悠星の家へ向かった。 昨日の出来事の理由も説明したかった。誤解されたままにはしておけなかった。 走ってきたので悠星の家へはすぐ着いたが、インターホンを押すには時間がかかった。 昨日の今日だったので、悠星の反応が怖かったのもある。 ごく、と唾を飲み込んで、ゆっくりとインターホンを押した。 「…はい」 聞きたかったその声は、思った以上に早く返事をした。 「あっ、あの、俺だけど。雅樹だけどっ」 声が震える。落ち着け、落ち着け、と自分へ言い聞かせながら悠星へ話しかける。だが、悠星が応える声はしない。 「昨日、朝帰りしたって聞いて。心配になって」 「帰って」 悠星の声が食い気味にインターホンから聞こえた。棘を含むその声色に思わず後ずさりたくなる。だが、今、自分と悠星を繋ぐものはこのインターホンしかない。ここで話さなかったらもうずっと話せないかもしれない… 一縷の不安が過るが、雅樹は悠星へ話しかけた。 「帰らない」 「帰って」 「悠星が出てくるまで帰らない!」 直接会って話せば分かってもらえるはずだ。この時の俺はそう信じていた。 やがて(しばら)くの沈黙ののち、インターホンが切れた。 そこまで俺に会いたくないのか… 落胆しかけたその時、ドアがゆっくりと開いた。 パッと喜びに顔を上げた雅樹は、言葉を失った。 家から出て来た悠星は、泣き腫らした目でこちらをじっと見ていた。全身で拒絶を示し、どす黒いオーラを体に纏っているかのようだった。 しかし何より。昨日までには無かった妖艶なオーラが悠星からは滲み出ていたのだ。以前から既に悠星の事をそういう目で見ていた雅樹だから分かる変化だったのかもしれない。 純粋無垢な幼さから垢抜けた、どこか危うい雰囲気を連れて悠星は帰ってきた。雅樹をじっと見つめ、悠星は一言言い放つ。 「帰れ。もう二度と俺の前に姿を見せるな」 家の中へ戻って行く悠星を、雅樹はただただ見ている事しか出来なかった。 カフェでの悠星を見つめる深月の目は、じっとりとしたものを含んでいるように見えた。そして雅樹がカフェから出て行く時も、”店員”とは別の視線を向けられた。 これは本人の証言も無い。物的証拠なども無い。 完全に雅樹の感覚でしかないが、深月は悠星を変えた張本人であると、雅樹は悟ったのだった。

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