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第28話

雅樹の卵焼きを食べた日の帰り道。 「今日会える?」 悠星は、初めて自分から深月へ連絡をした。いつもはこちらの都合お構いなしに深月に呼び出されて行くだけだったので、自ら連絡を取るのは初めてだった。 実際、本当にこの一言を送るかどうかを悠星は午後の授業の間ずっと考えていたので、送った瞬間ため息と共にどっと疲労感を感じた。 平日16時なんてどうせ仕事で出られないだろう。それもあってようやく送信ボタンを押せたのに、返事は1分も待たないうちに来た。 「うおっ」 早すぎた返信に思わず声を上げる。周りをきょろきょろと見渡したが、特に通行人はおらず安堵のため息を零した。悠星は立ち止まり、返信文をじっと見つめた。 「20時から。店で待ってる。飯食べてくんなよ」 相変わらずこちらの都合を無視したいつもの呼び出し文。しかしいつもと違うのは”店で待ってる”という一言。 大抵は駅前で待ち合わせ。食事をした後ホテルへ直行だった。休日に呼び出された時は服屋へ連れていかれたりゲームを買ってもらうこともあった。 悠星の感覚的に、深月は兄のような、でも決して親類の間柄にはならない異質な人物だった。 陽も落ちて、町の明かりがより強くなる。20時少し前。悠星は深月の店の前に居た。すでに店のシャッターは閉められ、中の様子を伺うことは出来なかった。閉まる店内に不安になりもう一度メッセージを確かめようとスマホを付けたとき。 「来たか」 誰かの声がして振り返ると、そこには深月が立っていた。昨日店で見かけたきっちりした姿とは違い、シャツは着崩し、髪は無造作に流している。今まで見てきた深月がそこにいて、悠星はほんの少し安心した。 「…雰囲気変わりすぎ」 「ああ…はは、この格好で店には出れないからな」 「詐欺だよ詐欺」 「うるせーな」 深月は悠星を軽くいなし、店から離れていく。 「どこ行くの」 悠星は慌てて深月について行った。 「俺んち」 「は!?」 「やだ?」 「やじゃないけど…。初めてじゃん」 今まで大体ホテルばかりだったので少々緊張する。 「お前が初めて自分から俺に連絡してくれたご褒美」 「…っ」 確かに自分から連絡したけど。…したけど!! 改めて、しかも深月自身にそれを言われると、何とも言えない恥ずかしさがこみあげてくる。 一人内心悶えている悠星を気に留めず先に歩く深月は、悠星に尋ねた。 「つーか飯。何がいい?」 「は?」 「俺が作ってやるって言ってんの」 腕をがっと組まれ、悠星はぐえっと変な声を上げた。 「…何でもいい。それよりも聞きたい事いっぱいあるんだけど」 「飯が先だ」 悠星は仕方なく、大人しく深月へついて行った。

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