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第30話

深月の促しをきっかけに、いただきます、と挨拶をしてオムライスを口へ運んだ。舌に乗った瞬間中で卵が蕩け、中の具材と絶妙に絡みあっていく。今まで食べたどのオムライスよりも美味しくて、悠星は黙々と食べ進めた。 全て完食し終えた時、そこで初めて悠星は自分が夢中で食べていたことに気付いた。横をちら…と覗き見てみると、深月が悠星をニヤニヤと見ていていたたまれなくなる。そんな内心を隠すように、悠星は語気を強めに返したが。 「なっ、なんだよ」 「美味かった?」 深月の嬉しさ全面に出す表情に耐えられず、ふいっと顔を背け、ぼそっと呟いた。 「…うん」 「そりゃ良かった」 はははと笑う深月に、結局は悠星も意地を張らずに笑みを返したのだった。 「てか料理出来たんだな。店いつから?」 悠星は軽くトーストしてバターを塗ったバゲットを齧りながら思っていた事を少しずつ聞いていった。早々にオムライスを完食してしまった悠星に、深月が勧めてくれた。食い意地が張るのは少々恥ずかしかったが、悠星は素直に貰う事にした。因みに今食べているバゲットはここの近所のパン屋のものらしく、外はパリッとしていて中はもちもちでとても美味しかった。 「5年くらい前からだよ」 深月と出会ったのが約2年前程なので、知り合った時には既にお店はやっていた。 「なんで教えてくれなかったの?」 長い間秘密にされていた事を知り、悠星は不満を露わにした。 「聞かれなかったから。…あと、聞かれたら話さないと、って悠星もなるだろ?」 「それは…そうだけど…」 自分の事を何もかも見透かすような深月の返答に思わずどもる。そんな悠星を見て深月は厭らしく微笑んだ。 「今日制服は持ってきたか?」 「へ?…あ、あぁ、うん」 制服の入った自分の鞄をチラリと見る。 深月に時間指定をされた後、制服を持って来いとの追加のメッセージが届いた。今までも何度かその旨の指定はあったので、これが何を意味するのか理解するのに時間はかからなかった。 「食べ終わったら風呂だ。…その後教えてやるよ、お前の聞きたい事全部」 深月の妖艶な微笑みに、悠星は身体をきゅっと縮める。身体の芯が熱く疼いてくるようだ。 もう幾度も彼には全て暴かれているのに。何度身体を重ねても、彼のその瞳に慣れることは無かった。

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