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第37話 深月side
眠った悠星をお姫様抱っこで寝室へ運ぶ。見た目とは裏腹な悠星の軽さに再度少々戸惑いながらも、そっとベッド寝かし、自分も隣へ潜り込む。
小さな寝息をすぐ近くで感じながら、深月はそっと微笑んだ。
悠星と出会ったのは約3年前。その日は店が丁度休みでバーへ行こうと道を歩いていた時だった。道の向かいからふらふらと、少年ーーー悠星が歩いて来た。
目元には泣いた跡が残り、顔からは生気が抜け落ち、今にも死んでしまいそうな彼を深月はどうしても放っておく事が出来なかった。気付いたら悠星の腕を掴み、焦って声をかけていた。
「おい!大丈夫か!?」
いきなり腕を掴まれた悠星はビクッと肩を揺らす。そしてゆっくりと深月に視線を向けた。…その瞳には、光が宿っていなかった。
目の前の悠星を見ながら、ぼんやりとそんな事を思い返していた。あの時から悠星は随分と変わった。悲壮感は影を潜め、笑う事が多くなった。ただ、どこか遠慮がちではあるし、心から人を信じようとはしない。よく知らない他人にならともかく、深月にまでたまに疑心暗鬼になるから正直寂しくなる事はあった。
ふと、悠星が深月の服を引っ張った。顔を見ると寝息を立てながら眉を少し寄せている。どこか苦しそうな表情に、深月は自分の服を掴む彼の手を上から握った。その時。
「まさ…き…」
言いながら服を掴む手が強くなる。深月は悠星をぎゅっと抱きしめて耳元で囁いた。
「ゆうせい、俺がいる」
大丈夫、大丈夫、と、ぽんぽんと背中を優しく叩くリズムに段々と悠星の息は落ち着いてくる。そして、深月の胸に頭を擦り付けて、また小さく寝息を立て始めた。
深月は少しだけ苦い顔をする。悠星を苦しめている元凶であって、今もなお彼の中に居座り続けている"マサキ"を憎んでいた。
"マサキ"よりも自分の方がこんなにも悠星を大事に思っているのにどうしてーーー
悠星を呼び出すたびにその想いが溢れそうになる日々だったが。
そう、昨日。
悠星と翔太が店に来た後、少し遅れて若い男2人が店へとやって来た。そのうちの1人が深月を見た途端、顔が一瞬曇った事のだ。違和感を覚えた深月はその後も接客をしながら彼らを意識していたが、ずっと悠星達の方を見ていたのだ。
疑問が確信に変わったのは悠星達が店を出る時。営業スマイルで対応された事を悠星が不満に思っていた事は、彼を見ればすぐに分かったが悪戯のつもりでその姿勢を崩しはしなかった。
彼らを見送った後先程の男性客を横目で見てみると。ソファー席に座った奴が、どす黒いものがへばりつくような視線でこちらを見ていた。
常ではないその異常さに身震いすると同時、深月の中でパズルのピースがハマった。
悠星を苦しめている元凶の"マサキ"はあの男で彼はまだ悠星の事が好き。そして今の悠星と付き合いがある俺を知っているーーーーー。
それを理解した瞬間、深月は思った。
こいつは絶対に俺が守るーーーーーーー
深月は腕の中にいる悠星をぎゅっと抱きしめて眠りについた。
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