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第42話
この2週間の仕事期間中は皆長机を繋げて作業していたため、悠星は各人の側にお茶を置き、中央にお菓子を置いた。
「ありがとう、田口君」
「いえ」
早速藤井がお菓子に手を伸ばす。藤井は見た目に寄らず甘党だ。常時鞄にチョコレートを忍ばせているらしい。悠星もみんなと同様席に着き、お茶を飲んだ。
「いや~、本当にありがとね!マジで悠星君来てくれて助かったよ~」
神野がにこにこと笑いながら悠星にお礼を言う。彼のふわふわとした雰囲気はとても癒しだ。仕事中の回転の速さには心底驚いたが。
「それなら良かったです」
悠星もにこっと笑みを返す。ぎこちなくなってないかちょっと心配だ。あまり褒められ慣れていないこともあり、どう反応すればいいのか分からない。
「あー!信じてないでしょ!ほんとだよ!ねー、雅樹君!」
神野がふくれっ面を残したまま雅樹に同意を求めた。悠星の隣に座っている雅樹が優しく見つめてくる。何となくムズムズする内心を悟られぬよう、悠星はそっぽを向いた。因みにこの席順はお茶会が始まった時から雅樹のご指名だ。異論は他のメンバーからも認められなかった。
「うん。手際がいいし丁寧だし。何より気遣いが出来る。こういうお茶とかもそうなんだけど、俺らの仕事がどこまで終わったとか何が残ってるとかって言うのをちゃんとみんなが把握出来るようにしてくれてる。これって相当凄い事だよ」
真正面から雅樹に褒められ、悠星は何も言うことが出来なかった。だが次第に、じわじわと目元に熱が集まってくる。まだ一週間しか経ってないが、やるからにはしっかりやろうと意気込む反面、”飛び入り参加”した自分の事をメンバーらがどう思っているのかを考えると少しだけ怖かった。特に雅樹…”会長”から役立たずだと思われてなければいいなとずっと思っていた。
なので、こんな風に言ってもらえて、凄く嬉しかった。
じわりと視界が歪んでいく。亮介がティッシュを差し出してくれた。悠星は下を向いたまま頭を下げる。周りの温かい空気が恥ずかしくて顔を上げられない。
「あーもう雅樹君のせいだよ!」
「え!俺は本音を言っただけだろ⁉」
雅樹が悠星の顔を覗こうとするが、悠星が身体ごと雅樹に背を向ける。悠星のもう反対側に座っていた亮介が悠星の肩を抱く。
「あ!おい亮介!勝手に変な事してんじゃねえ!俺の悠星だぞ!!」
雅樹の焦り具合に笑みを隠しきれないまま、悠星は自ら亮介に体重を預けた。
「ちょっ、悠星も!そんなことしちゃいけません!」
本気で慌てた雅樹が、悠星のお腹に手を回して引き寄せる。雅樹の行動に他の三人は笑っていた。
「悠星、」
雅樹が悠星の顔を覗き込んでもう一度苦言を呈そうとした時。
悠星が雅樹へ花が咲いたような笑みを雅樹へと向けていた。
この学校に悠星が入ってきてから初めて向けられたその笑顔に、柄にもなく頬を赤らめた雅樹はただただ見とれていた。
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