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第43話

夏休みまであと3日。ようやく待ちに待った長期休暇に入るということで皆浮き足立っていた。 言うまでもなく悠星達もその1人で。 「ゆうせー!」 翔太が登校して早々、悠星に思い切り抱きついた。驚く間も無く翔太の腕の中に収められた悠星は、必死に身体を(よじ)って距離を取ろうとする。 「暑い!うるさい!離れろ!」 大声で喚くせいで周りの視線が集まる。恥ずかしさで顔が更に熱くなっていくのが分かり更に暴れるが、部活で鍛えた翔太には敵わなかった。 「だって悠星最近ずっと忙しいでしょ?中々話せないじゃん…」 翔太の声音が気持ち尻すぼみになっていくのを聞き、悠星は暴れるのを止めた。お腹に回されている手に自分の手を重ね、努めて優しく翔太に声をかける。 「顔見て話したいから一旦手離してくれる?」 翔太は見た目によらず実は甘えただ。と言っても毎度出てくるものではないが、たまに今みたいにスキンシップが激しくなる時がある。きちんと話せば素直に聞いてくれるのであまり困った事は無い。初めて見た時はかなり驚いたが。 大抵この状態になると、周りのクラスメイト達がいちゃついてると揶揄ってくる。だが、そんなんじゃねぇと悠星が反論する前に翔太の鋭い眼光でからかいの声が一瞬で無くなる。…ギャップが凄い。こいつ元ヤンだったりして…。 悠星の言葉を聞いてじっと黙っていた翔太だったが、やがて手を離し、悠星を自由にしてくれた。自由になった悠星は翔太の前の席へ座った。翔太も自分の席へ座る。 「ごめんな最近忙しくて」 「ほんとだよー!放課後はともかく朝も昼も忙しいってどういうこと⁉大丈夫?こき使われてない?いじめられてない??」 「なんでそうなるんだよ」 悠星がははっと笑った。 生徒会の手伝いを始めてから、悠星は休み時間までも忙しくしていた。といってもそれは強制では無く、少しでもみんなの為にと悠星が自主的にコツコツと仕事を進めていたからだ。 「ていうか翔太こそ部活で忙しかっただろ?」 「んー…」 翔太が眉を寄せて顔色を暗くした。 翔太自身も、朝練もあって昼もミーテイングがあるときはあって放課後はほぼ毎日部活。特に最近は大会が近いのもあっていつも以上に忙しくしていた。 「それは…そうだな。ごめん。ウザい事言って」 犬の耳が垂れ下がるような翔太の雰囲気に、悠星は優しく笑って彼の頭に手を置いた。 「そんなことねーよ。お前可愛いよな」 「可愛くねーし」 くしゃっと髪を撫でてくる悠星の手に身をゆだねながら翔太は明るく笑った。

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