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第51話

深月の家に着き、手分けして荷物を片付けた。相変わらず深月の家は綺麗で、どこか悔しく感じながらも作業をしていた。 大体仕分けが終わると、深月が昼食の準備を始めた。その間悠星は買ってもらった日焼け止め等を仕舞いに行き、浴衣も広げてみた。家で一度羽織った時も丈は大丈夫だったが、もう一度羽織ってみる。 いつもと違う首に当たる感覚に少しだけ気持ちが浮足立つ。ふと目を向けると、縦長の姿見鏡に映る自分がいた。中学の頃、高校生になればもっと変わるのかと思っていた。…早く大人になりたかったのに、鏡に映った自分は大して変わっていない気がする。周りばかり大人になっていって自分だけ取り残されている感覚に、ほんの少しだけ胸がチクリとした。 「ゆうせー、できたぞー」 「っ、はーい!」 深月の声にハッとして、羽織った浴衣を雑に脱ぎ捨ててリビングへ向かった。 テーブルにはオムライスとサラダ、オニオンスープが置かれていた。オムライスには前回と違って白いソースが掛かっていた。 「こんなに作ったの?早くね?」 「作ったのはオムライスだけだよ。スープは作り置きの分だし」 深月が麦茶を注ぎ、悠星がスプーンとフォークを用意して席へ着く。悠星が待ちきれないと言った様子で料理をじっと見る。 「なあ、このソース何?」 悠星がオムライスにかかったソースを見て言った。 「ホワイトソース。美味いと思うよ」 「美味いだろ絶対。深月の作るご飯美味いもん。な、食べよ!!いただきまーす!」 嬉々として食べ始めた悠星を深月はじっと見ていた。 ”深月の作るご飯美味いもん” ついさっき聞いたその言葉がじんわり胸に広がる。 「…いただきます」 挨拶の後、深月はスプーンを取るのではなく氷の入った冷えた麦茶を飲み干した。 「ごちそうさまでした!」 綺麗に食べ終えたご飯を前に悠星が満足げに言った。美味しくて悠星はおかわりを強請ったが、時間も時間だったのでオニオンスープ1杯でやめておいた。 そして食器を洗い終えた悠星達は、ようやく今日のメインの予定である浴衣の着付けを行う為、旅行荷物の置いてある寝室へ向かった。 「あっ」 深月が扉を開けた時、ついさっき乱雑に脱ぎ捨てたままの浴衣が目に入る。悠星は慌てて部屋へ入ろうとするが、深月の方が一足先にそれを見つけた。 「何、もう出してたの」 「え?あ、いや、…まぁ」 歯切れの悪い返事に深月がニヤニヤと悠星を見た。 「そんなに楽しみだったのか」 「っ、ちげーし!てかさっさと始めようぜ」 焦る悠星に、深月はハハッと笑い声を上げた。

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