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第52話

悠星は、UネックのTシャツとステテコ(どちらも深月のもの)に着替え、浴衣を羽織る。きちっと腰に巻きつけるように浴衣を整え、腰紐を結ぶ。ここまではそれほど難しくもなく、難なくできるようになった。 「よし、次は帯だな」 そう言って深月は側に置いてあった帯を手に取った。 「というか結構しっかりしたもの持ってたんだな」 「ああ…、翔太と最近買いに行ったんだ」 「翔太と?」 夏休みに入ってから3日後、翔太と悠星は浴衣を買いに来ていた。ショッピングモールを散々歩き回り、やっと値段と好みが合致する浴衣を見つけたのだ。 「歩きすぎてすげー疲れた…」 その時のことを思い出して悠星がげんなりとする。深月は彼の表情を見て笑った。 「まあそんなもんだろ。…良かったな、いい友達ができて」 深月はフッと笑って悠星の頭をぽんぽんと軽く叩く。悠星も柔らかく微笑んで、こくりと頷いた。 深月が悠星に教えたのは”貝の口”という帯の締め方だった。男性の浴衣の帯の締め方としてはスタンダードで初心者向けでもある。 「まず端だけ折り曲げて…そう、で、こう、帯を巻いていく。2回な」 「え、折った分ほったらかしにしていいの」 「あとで使うから。出来たらこの長い方を半分に折って…」 初めに残した帯の端も使って、リボン結びをするように形作っていく。そして、その帯を背中へ回し、最後に全体を整えたら。 「完成だ」 目の前の姿見にはピシッと浴衣を着こなした悠星がいた。 「ほー、結構似合うじゃねーか」 深月が鏡を覗き込んで言った時、悠星はほんの一瞬表情を曇らせた。 「…これ一人で出来るようにならないといけないんだよね」 苦笑いしながら帯の結び目を前に戻し、解いていく。 「でもお前器用だからすぐ出来るようになるだろ」 「だといいけど。…ねえ巻いた後どうするんだっけ」 「一回縛るんだよ」 その後、腰紐までの手順よりかは回数を重ねてようやく一人で形になるように着付けが出来た。 「もう一人でもバッチリじゃねーか?」 「うーん…なんとかね。でも当日深月居ないから…」 「まあ分かんなくなったら動画見ろ。検索すれば普通に出てくるから」 「分かった」 そこまで話し終えると、深月はクローゼットから何かを探し始めた。 「何してんの?」 「俺も浴衣着るんだよ…あったあった」 深月が取り出したのは、ダークグリーンののかすり浴衣に薄めのグレーに黒のラインが入った帯という至ってシンプルなものだった。彼はそれを慣れた手つきで浴衣を身に着けていく。 悠星はその姿を横でじっと見つめていた。

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