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第54話

着付けを終えて髪も簡単にセットした二人は、約束通り夏祭りが行われている神社へ来ていた。鳥居をくぐる前から既に出店が道の両側にひしめき合っており、大勢の人たちが訪れていた。 「結構混んでるなー」 悠星が周りを見渡しながら感心したように声を上げる。 「ほんとだな。はぐれんなよー」 「子供扱いすんじゃねえっ…ぉわっ」 意地を張った勢いでずかずかと前へ歩いていくが、地面の砂利につまずいて体が前のめりになる。 やばい そう思った瞬間、後ろから腕をぐっと引かれた。 「な、にやってんだよほんと…」 「深月…」 「意地張る時点で子供だっつーの。…行くぞ」 深月が前を先導して歩く。同時に手をきゅっと握られた。 「えっ、ちょっと…」 掴まれた手を振りほどこうとするが、逆に強く握られた。 「行くぞ」 優しく微笑んだ深月の顔に、胸がきゅっと締め付けられるようだった。 たこ焼きに焼きそば、お好み焼き、大判焼き等、目に付いた美味しそうなものを色々と買った。食べられないかもという心配は、明日の朝ごはんにでもしようという事で解決した。 「食ってばかりだけどなんかやりたいことあるか?」 少々開けた静かな場所で焼きそばを食べていると、深月が悠星に尋ねてきた。 「祭りなんて食いもん目当てだろ!」 にこにこしながら話す悠星に、深月は半分呆れながらも笑った。 「まあお前が楽しいならいいんだけどな」 それを聞いた悠星は、焼きそばを食べる手を止めて深月をじっと見た。 「…深月は楽しくない?」 「楽しいよ」 深月は悠星のこめかみにそっとキスをした。 「っ!!ちょ!!」 キスされたこめかみを抑え、悠星は顔を真っ赤にして慌てた。 「場所!考えろよ!」 「俺は悠星と一緒にいれるだけで楽しいよ」 周りの喧騒がかき消えた。自分の心臓の音がひどく大きく聞こえる。深月の優しい表情がとても眩しい。こんなに優しい人と一緒に居ていいのだろうか。中途半端な自分にその資格があるのだろうか。…でもこの心地いい空間から出たくないと思ってしまう。彼と離れる未来は想像したくない。これ以上、一人になりたくない… 彼の純粋な優しさに触れ、何故かとても泣きそうになってしまう。 目が潤んだのを悟られたくなくてふいとそっぽを向こうとするが、頬に手を添えられて目が合った。 「かわいーな」 「かわいくない…」 「お前はそのまんまで居てくれたらいいよ」 「…」 「なんだ?俺がそう言ってるのに不満か??」 深月は悠星の首へぐいと腕を回し、頭をぐりぐりと撫でた。 「痛い!やめろって!」 「俺と居るのに遠慮した罰だ」 「分かったから!もう分かったから!」 笑い合う二人の声が祭りの喧騒に紛れて溶けていった。 「あれ?悠星じゃね?」 「あーほんとだ」 「翔太、悠星って兄貴居たの?」 「え?…いや、知らない。友達とかじゃね?」 「ふーん、そんなもんか」 談笑している二人の様子を、サッカー部面子でお祭りに来ていた翔太が見ていたことを、悠星は知らなかった。

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