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第56話

翌日。悠星は深月の運転する車で駅に向かっていた。昨日のお祭りの残り物は半分が朝ごはんと、もう半分が今日の道中の軽食にと深月が持たせてくれた。夏休みとは言え平日なので、通勤途中の人々がちらほらと見える。ただその中にも家族連れや学生の姿もままあるのが夏休みらしい。朝早い時間に出歩いているのだから、遠出の人々が多いのかもしれない。 窓の外を眺めていると見慣れた駅が目に入る。深月の家は駅からそれほど遠くないのだが、思ったよりもすぐに着いた。路肩に車を停めて荷物を降ろしている途中、悠星があっ、と声を上げた。 「そうだお土産!何がいい?」 尋ねられた深月は考える間もなく即答した。 「酒に合うもの」 「いや分かんねーよ」 「ははっ、何でもいいよ」 笑った深月がトランクを閉めたのを合図に、悠星は深月に向き合った。 「…ありがとな、送ってくれて」 「どういたしまして。何日行くんだっけ」 「二泊三日」 「そうか。まあ楽しんで来いよ」 深月の骨ばった手が乱暴に髪を撫でる。往来というのもあるが、彼の優しさに触れたのがむず痒い。 「い…、行ってきます!」 頬のほてりを隠すように背を向けて歩き出そうとしたら、ぐっと手を引かれた。 「何?!」 「帰り迎えに行くから」 「何で?」 「何でも。…やだ?」 そっと顔が近づいてきたと思ったら、深月の甘い低音が耳たぶをくすぐる。朝からそんな確信犯なことをされてもどう対応すればいいのか分からない。 こいつ…わざと耳元で言いやがって…!!! 抗議をしようと振り返るとにやにやする深月が目に入る。悠星のそれを見越しての行動だと分かり、尚更頬に熱が集まった。悠星は耳をバッと抑えて深月に改めて抗議する。 「お前!からかうのやめろ!」 「だって可愛いから。…で、やだ?」 「可愛くねーし!分かったよ!待ってる」 その返事を聞いた深月は満足げに微笑んだ。 「あ、あれ翔太じゃね?」 「え⁉」 そんな深月の視線の先にある駅の方を振り返ってみると、確かに翔太らしき背の高い、キャリーケースを持った人がいた。 「やべっ!じゃあ行ってきます!」 「おう、行ってらっしゃい」 キャリーケースの音を響かせて、悠星は駅の方へ向かって行った。

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