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第57話
駅の方まで行ってみると、やはり翔太らしき人は翔太だった。
「翔太!」
近くまで行って声をかけると、振り返った人物はぱっと笑顔になった。
「悠星!」
雅樹が駆け寄ってくる姿はまるで大型犬のようだ。見えない尻尾をぶんぶん振っているように見える。
「おはよ。待たせた?」
「ううん、来たばっかだよ」
「よかった」
まだちょっと眠いとか、お菓子を持参してるとか、そんな他愛のない話をしながら2人は改札へと向かった。
これから向かう亮介のおじさんの家までは、電車で約2時間。最寄り駅まで着いたら車で迎えに来てくれるらしい。電車は途中から新幹線を使ったので、そこで2人は持ち寄った食べ物をミニテーブルに出して軽く食べた。さながら遠足気分だ。
「翔太のやつ何味?」
翔太が出したものは爽やかな青いパッケージにピンクの文字で商品名が書いてあるスナック菓子だった。
「練乳ソーダだって」
「は?」
「夏限定らしいよ」
そう言いながら嬉々として蓋を開けてお菓子をつまむ。どんな味なのか。翔太をじっと見守るが、その前に目の前に箱を出される。
「え?」
「食べてみて」
「え??」
「いいから」
勢いに押されて断りきれず、恐る恐る口にする。実際その味は、
………………まずい。
めっちゃくちゃ不味い!!!なんでこれ商品化出来たんだ⁉
苦々しい顔をしながら食べさせてきた本人の方を向くと、眉を下げながら笑いをこらえていた。
「翔太…」
「わり…、いやこれめちゃくちゃ不味いな…うっ」
「じゃあ勧めんなよ!」
2人して急いで飲み物で流し込んだ。悠星は口直しに、深月が使い捨て容器に入れてくれたお祭りの残りの詰め合わせを机に出した。それほど量は多くないが、小腹を満たすには十分な量だ。
「あっ」
悠星が食べ始めようとした時、翔太が何かを思い出したように声を上げた。
「それって昨日の祭りのやつだったりする?」
「え、うん」
ギク、とした内心は表に出さないように、なるべく平然と話を聞く。
「俺さ、昨日悠星らしき人を見たんだよね。深月さんと居ただろ?」
「…」
「…朝もさ、一緒に来てたよね?」
「………」
…まさかそこまで見られてたなんて。
翔太に”知らない人”と嘘をついていた手前、非常に気まずい。
翔太の顔を見れずにいると、そっと足に手を置かれた。ハッとしてそちらへ顔を上げると、翔太が困ったように笑っていた。
「泣きそうな顔すんなよ~俺が悪者みたいじゃん」
「ちがっ!そんなんじゃ」
焦って謝ろうとすると、翔太が頭をクシャっと撫でてきた。
「別に無理に聞くつもりはないから安心しろ」
ニカッと笑う翔太に、やっぱり優しいなあと思うのだった。
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