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第58話
このまま嘘をつき続けるのも心苦しい。ただ正直に言うのは気が引ける。どう言えば伝わるのか。悠星は一つひとつ言葉を選びながら話していった。
「あ…、えと、深月、がカフェやってるの、あの日初めて知ったんだよね。だからちょっとテンパっちゃって。…それに約束しないで会うの初めてだったし」
「…」
「…あと、仲良くない人って言ったのは…その…、照れ隠し…です…」
嘘は言ってない。ただ言ってて非常に恥ずかしい。思わず顔を手で覆うと、それまで黙って聞いていた翔太が笑い声をあげた。
「ほんと…悠星は面白いなあ」
「面白くねえよ…!つーか、嘘ついてごめんな…?」
無意識に翔太を伺い見るように覗き込むと、何故か口元を抑えて反対側を向いていた。
「も、もういいから…っ」
「翔太?」
「あー!もう!」
その声と共に気付いたら頬を両側から挟まれていた。これ絶対顔やばいやつじゃん。
「俺も理解したしもう聞かないから謝るな!そんで上目遣い禁止!」
「へ?」
きょとんとしてると手が離れ、翔太と真正面から視線が絡む。
「あと、教えてくれてありがとな」
ふっと笑う彼の笑顔を見て、悠星も自然と笑っていた。
夏休みの宿題がまだ残っているだとか、同じサッカー部のうちの一人に彼女が出来ただとか、話していると時間が過ぎるのはあっという間で、とうとう目的地の駅に辿り着いた。
涼しい新幹線を降りて改札を抜ける。駅構内から見える空は、ブルーの絵の具を一面に塗ったような、まさに夏らしい快晴だった。ただ、まだ午前中だというのにじわじわと蒸し暑さが纏わりついてくるのも夏らしい。
その時、悠星達が出てくるのを待っていたかのようなタイミングで聞き覚えのある声が聞こえた。
「悠星!翔太!」
ふっと顔を上げて見ると、そこには夏服に身を包んだ雅樹がいた。制服姿ばかり見てたからなんだか新鮮だ。
「あ、雅樹」
「雅樹先輩、お久しぶりです」
「久しぶり。お疲れ様」
「ただ座ってただけだけどな」
「はは、それもそうか」
3人で談笑していると、一人の男性が彼らの元へ近づいてきた。
「君らが雅樹の後輩?」
雅樹の後ろに立った男性が二人に笑顔を向ける。
「亮介の叔父の辰正 です。今日は来てくれありがとな」
その言葉に悠星と翔太は慌てて姿勢を正して辰正に向き直った。
「田口悠星です」
「堤翔太です」
「「よろしくお願いします!」」
礼儀正しい二人の挨拶に、辰正はハハハと笑った。
「おう、こちらこそよろしく」
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