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第59話
海の家に行く前に荷物を置くことも兼ねて、今回泊まることになる辰正の家にやって来ていた。
「今回は龍也 と圭吾 の部屋使ってな」
「龍也と圭吾…って誰ですか?」
翔太が聞くと、辰正が思い出したように笑った。
「ああ、俺の子供だよ。今は社会人と大学生で一人暮らししててね。丁度二部屋空いてるからこの時期はいつも雅樹達に貸してたんだ」
「そうだったんですね」
「そうそう。じゃあ着替えたら玄関来てくれな。あ、日焼け止めとか忘れんなよ」
「はい」
辰正が出て行き、雅樹もそれに続いて出て行った。
「部屋割りは帰ってから決めるからな!」
という言葉を残して。
二人きりになり、荷物から水着を取り出して着替えていく。今回は海の家なので水着を着てのバイトを指定された。悠星が水着を取り出した時、その隣に入れた覚えのないパーカーが入っていた。疑問に思いながらも着替え終えて持って行く荷物を準備していると、隣で既に着替え終わった翔太が笑った。
「まだ上脱ぐのは早いだろ。Tシャツ持ってないの…って、わあ!!!」
「何⁉」
翔太の叫び声にビクッと驚いて振り返ると、叫んだ翔太が勢いよくしゃがんで悠星の両肩を掴んだ。
「おおおお前!」
「何⁉」
「俺のセリフだよ!え??悠星いつ彼女出来たの?!」
「彼女なんていねえよ!」
「でもだってこれ…」
翔太の顔がすっと首元へ伸びてくる。悠星が思わずのけ反り後ろ手を着いた時、自分で脱ぎっぱなしにした服で手が滑った。
「わっ」
ぎゅっと目を瞑って衝撃に耐える。とさ、と寝転んだと同時、背中に服の感触がした。そっ…と目を開けると、真上に床に手を付いた翔太の赤くなった顔があった。
「し、翔太…」
「悠星…、キスマークある…」
「えっ」
さあぁ、と顔から血の気が引けてくる。いや、原因は絶対アイツだけど………!!!
何て言い訳しよう。深月との関係に気付かれたらどうしよう。さすがに軽蔑されるか…?!
頭の中がぐちゃぐちゃになって混乱して、どうしたらいいのか分からなくなったその時。
ガチャ…
「二人ともどう…した…の…」
幸か不幸か。いや、亮介だったら”助かった”だけど、入ってきた人物を見て悠星は思考放棄した。
2人の騒ぎ声を聞きつけて慌てて部屋に入ってきた雅樹の目に映ったのは、翔太が悠星を押し倒しているという…
「…翔太?」
「いや違う!違うっすから!」
にこにこしながら翔太の胸倉を掴む勢いで迫る雅樹を二人で必死になだめ、移動中の車内で散々弁解をしたのは言うまでもない。
…もちろん悠星は、深月がひっそりと忍ばせたパーカーをきっちり着ているし、キスマークのことはもちろん内緒にして。
海の家に着くと、亮介と、辰正の妻の美香 が開店準備をしていた。美香は髪を後ろで一つに結んでいて、溌剌 とした明るい人だった。
「いらっしゃい。今日はありがとね」
「いえ、宜しくお願いします!」
美香と挨拶を済ませると、亮介が笑いながら悠星達の元へ近づいてきた。
「二人とも、久しぶり」
彼の変わらぬ笑顔に悠星が笑って答えた。
「お久しぶりです」
「今日はありがとな」
「いえ、こちらこそ」
久々に会った亮介は、夏の陽を背に健康的に焼けていた。
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