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第61話

「え?あー、まあ、そうですね…」 「めっちゃ女の子にモテるじゃん。俺ら折角ナンパしに来たのにさー」 つまりこいつらは、自分らのナンパの失敗原因を雅樹達に押し付けようとしていた。それはすぐ分かったのだが、この時の悠星は女の子達に愛想を振りまく雅樹へのモヤモヤが勝っていた。無自覚にむす…とした顔をしていたのだが、それまでニヤニヤしていた茶髪の男たちは誰からともなく静かになる。 「…ねえ!」 いきなり手首をがしっと掴まれた。ビクッとして男を見ると、前のめりなって悠星を覗き込むように見ていた。つい先程とは違う彼の雰囲気に思わず後ずさるが、掴まれているので動けない。 「あの…っ」 「ねえ、この後暇?俺らとナンパ行く?」 「それともどっか遊びに行く?奢るよ?」 「いやいいですっ」 「遠慮しないでさ…」 急にぐいぐいきた男たちに内心恐怖を感じて首を振るが、男の手が離れるそぶりはない。そろそろ()わしきれなくなって焦り始めたその時。 「お客様」 「いっ!」 悠星の腕を掴んでいた茶髪の男が顔をしかめた。彼の腕を掴んでいる人物を見ると、そこには無表情に茶髪の男を睨む雅樹がいた。 「手を離していただいてよろしいですか?」 「いやお前が離せよ…いたたたたっ」 茶髪の男が声を上げると同時に悠星を掴む手を離した。手首への圧迫感が無くなってほっとしたのもつかの間、ふと見た男の顔色は晴れなていかった。ハッと雅樹の手元を見てみると、ぎりぎりと音が鳴りそうなくらい力を込めている。 「雅樹っ、もういいから!」 雅樹の静かな怒りに逆にビビった悠星は、とっさに彼の腕を掴んで静止を求めた。掴んでいた雅樹は、悠星の手の感触を感じてようやく男の手を離した。 一連の騒ぎを見守っていた亮介が、雅樹が手を離した時そっと近づいてきた。 「雅樹」 亮介に肩を叩かれた雅樹が険しい顔のまま振り返る。 「お前一回休憩行ってこい」 「…(わり)ぃ」 気持ち肩を落としてバックヤードへ向かう背中を悠星が心配そうに見守る横で、亮介が茶髪の男たちに向き合った。 「お客様、出口までご案内しますよ」 フッと笑った亮介を見てこの場の空気がピキッと凍った事を、悠星だけが知らなかった。 バックヤードをそっと覗いてみると、雅樹が机に伏せていた。 「まさきー」 悠星が呼びながら雅樹の隣の席へ座る。雅樹が視線をチラッと悠星に向けてくる。 「…ごめん」 一言呟いて、また顔を机に伏せた。そんな彼を見て困ったように笑った。 「謝んなよ。…ありがとな」 悠星の一言に、雅樹がぴくっと反応した。 「まあ、やり方はちょっと過激だったけど」 悠星の笑い声に、顔を上げた雅樹も困ったように笑った。

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