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第63話
「あ、悪 ぃ、まだだったか?」
「いや、もう出る」
下着だけしか履いていなかった悠星は、慌てて残りの着替えを済ませていく。
Tシャツを手に取った時。
「なあ…」
雅樹の手がそっと悠星の首筋に触れた。
「ひゃっ」
湯上がりの身体に雅樹の手はひんやり感じて肩がすくみ上がる。抗議をしようと振り返ると、そこには予想に反して無表情の雅樹がいた。
「これ、どうしたの」
「え」
「キスマーク。誰に付けられたの?」
もう一度するりと撫でられた。雅樹の触れたそこが沸騰するように熱くなっていく。
「キ、キスマークじゃねえよ」
「朝のことがあってそんな言い訳するんだ」
「うっ」
早くこの場を離れたいのに、雅樹がそれを許してくれない。ちらっと雅樹の顔を見ると、先程の無表情とは違う、眉を下げた悲しそうな彼がいた。
思わず顔を凝視していると、雅樹に痕をするりと撫でられて。
「んっ」
首筋にピリッと痛みが走ったと思うと、洗面台の鏡にはキスマークを上書きされている自分がいた。
「ちょっ…!雅樹!」
「今日はこれでいいよ」
「今日はって…」
「これ以上の事していいなら話聞くけど?」
ニヤリと楽しそうな笑みを浮かべた雅樹にボッと顔を熱くした悠星は、逃げるように脱衣所を出て行った。
身体に降り注ぐシャワーが心地いい。
彼の走り去る後ろ姿を思い出し、雅樹はふっと頬を緩ませた。
あの体も、心も、いずれは全て自分のものにしたい。
その為にはまず”アイツ”から悠星を引き剥がさないと。
………俺の大事な悠星に触れやがって。アイツだけは許さない。
因みに部屋割りは、亮介が有無を言わさず雅樹を自室へ連れて帰った。なので。雅樹・亮介、悠星・翔太という組み合わせだ。亮介のそういう所はとても格好いいと思う。
悠星は、脱衣所から逃げるように部屋へ戻ってきた。バン、と勢いよくドアを開けると、明日の準備をしていた翔太にガン見された。
「は!?何!?どうしたの!?」
Tシャツも着ていない悠星を見てただ事ではないと勘違いした翔太が、悠星の腕を掴んで心配してきた。彼の焦り具合を見て逆に冷静になった悠星は、何でもないと慌てて弁解をした。
「何だよもー…。寿命縮まるかと思ったわ…」
「ごめんごめん」
「ていうか何で服どうした?」
「…あー…、忘れた」
「?取りに行けば?」
「いや…」
ドアをじっと見つめた悠星は、別のTシャツを取り出して着替え始めた。
「歯ぁ磨く時に行くわ。てかそれって浴衣?」
翔太の手に持つ和服を見て悠星は尋ねた。
「そう!いいの見つかって良かったよな」
「それな!あれマジで疲れからな」
散々歩き回ってようやく見つかった浴衣は、デザイン的にも実はかなりのお気に入りだったりする。
「明日の祭り楽しみだな!」
「そうだな」
ニカッとした眩しい笑顔に、悠星もつられてはにかんだ。
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