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第64話
「いらっしゃいませー!」
入口付近にいた悠星が、店に来た客を席まで案内して水を出す。
「ご注文が決まりましたらお呼び下さい」
「ねえお兄さん」
ようやく言い慣れてきた典型文を口にして去ろうとすると、まさに今案内した席の女性たちから声を掛けられた。
「はい」
既に注文が決まっているのかと、メモ用紙を改めて手にして振り返ると、彼女らが口にしたのは別の言葉だった。
「今日何時に終わるの?」
「…?」
「お姉さん達と遊びに行かない?」
「え…」
どう返答しようか迷っていると、颯爽と雅樹が現れた。
「ご注文はお決まりですか?」
雅樹の営業スマイルに女の子たちはきゃあきゃあと黄色い声を上げ、我先にと雅樹へ声をかけ始めた。彼女たちの現金さに半ば感心しながらも、変わってくれたことに感謝して完成した料理を受け取りに向かった。
二日目の今日、今のように絡まれた悠星を雅樹と翔太と亮介の3人がサポートしてくれるという、悠星にとっては非常に申し訳なく思う構図が出来上がってしまった。提案した雅樹に他の2人は二つ返事で了承し、一人嫌だとごねた悠星は猛反発を受け、渋々みんなの好意に甘えさせてもらうことになった。
たった今も雅樹に代わってもらったばかりで、片した食器をキッチンへ持ち帰ると美香が食器を洗っていた。
「お疲れ様です」
「あ、お疲れー。一緒に洗っちゃうからそこ置いといて」
「すみません」
美香の言う通り、食器を流しに置かせてもらう。
「ありがとね、手伝ってもらって」
美香が食器を洗いながらお礼を言った。悠星は何となくむず痒くなり、食器拭きを手伝うことにした。
「いえ…。俺なんかみんなに迷惑ばかりかけてて…」
ホールにいる雅樹をチラッと見て、悠星は肩を落とした。
「適材適所、ってあると思うのよ」
美香は食器に目を向かたまま静かに話し始めた。
「悠星君はお客さんへの対応も丁寧だしよく周りを見てる。細かいところに気付かない人って結構いるものじゃない?」
「…」
「ああいうちょっと元気なお客さんの相手は雅樹達に任せておけばいいよ」
「美香さん…」
最後の食器洗い終えた美香が、ニコッと笑いながら悠星へと振り返った。
「まだ二日目だよ?それでここまで出来てるなんて上出来だから。もっと自信持ちなさい」
美香の言葉に胸がじんわりと熱くなっていく。
「じゃあ、残りも少ないけど、最後までよろしくね」
「…!はい!」
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