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第65話

「お疲れ様でしたー!」 無事に二日目を終えた悠星達は、浴衣を取りに家へと帰ってきていた。 「つーかお前ら着付け出来るの?」 割り当てられた部屋へ入る直前、雅樹が思い出したように悠星と翔太へ尋ねた。 「あ!俺出来ないっす!」 着付けの事はすっかり忘れていた翔太が焦ったように大声を上げた。 「先輩たちは出来るんですか?」 「まあな。お前らの分もやるよ」 雅樹の申し出に、翔太は安堵の声を上げる。 「まじすか。良かった~」 「あ、俺は自分でやる」 それまで黙って話を聞いていた悠星がぼそっと呟いた。そんな悠星の言葉に一番に驚いたのは、他でもない雅樹だった。 「え!!?何!?着付け出来んの!?」 「うん」 「マジで!?」 「…驚きすぎじゃね?」 予想以上にオーバーリアクションな雅樹に段々ウザくなってきた時、彼の口から出たのはある意味”彼らしい”台詞だった。 「合法的に(さわ)れるチャンスだったのに…」 パシンッ!と乾いた音を立てて雅樹の頭を叩いた悠星は、翔太を連れてズカズカと部屋へと戻って行った。 「…ったくクソが…」 ブツブツ文句を言いながら、悠星は浴衣用の服へと着替えていく。 「ほんと雅樹先輩ってブレないよなー」 クツクツと笑いながら翔太も服を着替えていく。 「いつもごめんなマジで…」 「いいよ。というより俺は当事者じゃないから単純に面白い」 いたずらに笑う彼を見て、悠星も困ったように笑った。 「それより悠星着付け出来んのな!何で?」 「あー…、練習した」 「今日の為に?」 「まあ…うん…」 自分で言ってて段々恥ずかしくなってきた悠星は、くるっと翔太に背を向けた。そんな彼の行動を見て、翔太がぎゅっと背中から抱き着いてきた。 「ちょっ!翔太!」 「悠星ほんと可愛いな!」 「はあ?」 「可愛い可愛い」 「可愛くねえって!」 彼のハグから抜け出そうとするが、逆に力が強くなり抜け出せない。暫く好きにさせようかとため息をついて脱力した時、自室の扉が勢いよく開いた。 「どうした⁉の…」 声の方向を見てみると、あとは帯だけ、という状態の焦った顔の雅樹と目が合った。悠星を見た雅樹が、翔太へと視線を向ける。雅樹と目が合った翔太は慌てて悠星から離れ、彼の視線から逃れるように悠星の影へと隠れた。 「…翔太?」 殊更優しい声音の主は、顔は笑っているはずなのに全く笑っていなくて… 着付けどころではなくなり、亮介に助けてもらうまでこのドタバタは収まらなかった。

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