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第68話
雅樹が悠星の持つ銃にコルクを詰めてまた彼に返す。
「まあ簡単だから。とりあえず構えてみ?」
彼から銃を受け取り、ぎこちなく構えてみる。
「もっと肩で支えて…」
雅樹が顔のすぐ近くで悠星にアドバイスをしてくれる。彼の低い声が耳たぶをくすぐり、体に染み渡って行く。何とか的をきちんと見据えて、平常心を保とうとすればするほど、心臓の音がドクンドクンとひどく大きく聞こえてくる。
この緊張が雅樹に伝わってない事を願い、引き金を引いた。
「あっ」
カツンといい音が鳴ったと思ったら、小さなお菓子の箱が1個、倒れていた。
「おーナイス!」
翔太の声が後ろで聞こえる。自分の頬が、先程とは別の意味で上気しているのが分かった。
「いいじゃん」
横をチラッと見ると、雅樹がこちらを見てくしゃりと笑っていた。
「…うん」
胸のむず痒さを隠すように、悠星は次のコルクに手を伸ばした。
結局悠星は5発中3発命中。小さなお菓子の箱計3つを手に入れた。
「悠星と俺一緒じゃん」
「いや翔太の方がデカいの当ててるじゃん」
「まあ悠星よりは経験者ですから?」
「ドヤるなって」
彼の軽口に笑っていると、丁度悠星と入れ違いで射的をやった雅樹と亮介が手に景品を持って帰ってきた。
「何取ったんすか?」
翔太が興味津々に彼らに尋ねると、2人が獲得した景品を見せてくれた。雅樹はお菓子3つに小さなぬいぐるみが1つ、亮介はミニプラモデル2つにお菓子3つだった。
「亮介先輩、全部当てたんすね⁉」
「ああ」
「さすがっすね…。雅樹先輩のそれ何すか?」
「ああこれ?」
翔太に聞かれた雅樹が、手の中のぬいぐるみを差し出した。
「うさぎ…いや、犬…?」
「クマじゃね?」
「でも水色だし…」
「ネズミじゃないか?」
「えー!?…ああ…」
それは何かの動物を模した小さなぬいぐるみだったが、よく分からないものだった。
「雅樹先輩これ欲しかったんすか?」
「翔太と一緒だよ。こういうのはやるのが楽しいんだって」
「ははっ、なるほど」
笑い合う彼らを見ながら、悠星はそっとぬいぐるみに手を伸ばしてじっと見る。
「悠星?どうした?」
何も言わない彼を見て、雅樹が声をかけた。
「何かこれ…雅樹っぽい」
「は⁉」
悠星の呟きに、雅樹は少し慌てた。
「悠星、貸して」
亮介に言われ、悠星がぬいぐるみを差し出す。
「なんか…うまく言えないんですけど、気の抜けた感じが…」
「…ああ、なるほど。確かに似てるな」
「はあ⁉」
「え?見せて見せて」
翔太も横からぬいぐるみを受け取りまじまじと見つめた。
「…どこが?」
「だよな⁉」
「え、この口の開き具合が…」
「ああ!悠星大好きアピールしてるときの先輩か!」
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