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第69話
「は!はあ⁉そうじゃなくて」
急に思いもよらない事を言われ、翔太をガン見する。
「ああ…、言われてみればそう見えなくもないな」
「先輩まで!」
翔太と亮介が悠星を見ながらニヤニヤと笑った。
雅樹をからかいたかったはずなのに、いつの間にか話の的が自分になってしまっている。悠星は羞恥と焦りで顔をどんどん赤くしていった。
「翔太!それちょっと貸して…」
「どれどれ」
余計なことを雅樹本人からも言われないように隠したかったのに。
翔太からぬいぐるみを奪おうと伸ばした悠星の手を、翔太はうまい具合にするりと抜けて雅樹にぬいぐるみを渡した。悠星は諦めきれずぬいぐるみに手を伸ばすが、雅樹が上手い具合に体を挟んで悠星を退ける。
「まあこれ俺のだし。…俺こんなだらしない顔してるか?」
「少なくとも、会長の時の顔じゃないっすね」
「お前がここまで変わるとしたら悠星しかいないしな」
雅樹の話をしているはずなのに3人の視線が自分に向いていることを感じ、悠星は彼らに背を向けた。
「ふーん……」
その時、のしっと背中に熱が伝わった。ふわっと自分と同じシャンプーの匂いが漂ってくる。自分の顔のすぐ横に雅樹の顔があることが分かり、ますます悠星の顔が熱くなる。
「これ悠星にあげる」
「い、いらねーよ」
吐息がが耳たぶをくすぐる。
「俺に似てるなら悠星が持っててよ」
「だ、からいらねーって…」
低くて優しい声が身体の奥に染み込んでいく。
「どうしても?」
「どう、しても!」
逃げ出そうとした悠星を雅樹がぎゅっと抱きしめて…。
「貰ってくれないなら……ずっとこのままだけど」
「!!」
雅樹を突き飛ばし、耳を抑えてバッと振り返る。おっと、と声を漏らしながら、下を小さく出したままの雅樹がいたずらに悠星を見ていた。
「ほんっと素直だよね」
「う、う、うるせ-な!!」
「ふふ。で、どうする?」
悠星は、目の前に差し出されたぬいぐるみをひったくる。
「………しょうがないから貰ってやる」
にこにこと笑う雅樹を悠星は恨めし気に睨んだ。
…まだ耳を舐められた感覚が消えない。片耳だけごしごしと手で拭いたが、逆に耳が痛くなった。
案の定、ぬいぐるみを貰った事で翔太と亮介にはからかわれたが、その事には一切の黙秘を貫いた。二人もいつもの事だとそれ以上追及もしてくることも無く助かったが、そう割り切られるのも正直複雑だと、やっぱりモヤモヤは残ったままだった。
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