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第70話

家に帰った4人は、手土産として辰正達に出店で買った品物をいくつか渡しそれぞれ部屋へ戻って行った。 明日は最後の滞在だ。午前中は海の家を手伝って、午後は海で遊んでから帰ることになっている。荷造りをしていると、先程雅樹から押し付けられたぬいぐるみが足元に転がった。 『悠星大好きアピールしてるときの先輩か!』 翔太が言った言葉が頭の中をこだまする。 このしまりの無い緩んだ顔のどこが… 屋上でご飯を食べている時の雅樹。生徒会を手伝った時の顔。いつもの俺を呼ぶ声。 雅樹と過ごした日々がふっと頭をよぎり、悠星は(かぶり)を振った。 「なーにやってんだよ」 「わっ」 頭をくしゃっと撫でられて振り返ると、そこには風呂から帰ってきた翔太がいた。 「何か思い出してたんだろ」 「違うって」 「貰えて良かったな」 「だからそんなんじゃねーから」 ぬいぐるみを鞄へ押し込み、急いで明日の支度をする。そんな悠星の後ろ姿を見ながら、翔太は優しく笑った。 「なあ、明日海入るときタオルって持ってく?」 「辰正さんが貸してくれるって言ってなかった?」 「あ、そっか。…悠星」 準備を終わらせた翔太が手を止める。どこか常とは違う翔太の声音に違和感を覚えて振り向くと、ニカッと笑った翔太がいた。 「また一緒に来ような。今度は二人で」 「ははっ、…そうだな」 頬を赤くしながら、悠星も笑った。 今までとはまた違う夏休みに、悠星の胸はまた高鳴っていた。 滞在3日目の最終日。相変わらず過保護な3人に守られながらも、なんとか仕事を進めていく。 「焼きそば2人前入りましたー!」 「おう、了解」 厨房で作業中の辰正にメモを渡し、出来上がった料理を運んでいく。皿を片して掃除して、席へ案内してまた注文を聞く。想像以上に大変だったが、それでも充実した時間を過ごせていた。 「結構いい感じじゃない」 「え?」 皿を流しに片しに行ったとき、美香にそう言われた。 「そうだな。初日より随分落ち着いて出来るようになってるし。上出来だよ」 料理を作る辰正からもそう言われ、どうしていいか分からなくなる。夏の暑さのせいではないほてりが体中にどんどん広がって行く。 「あ、あ、あありがとうございますー!」 悠星はそう叫んで逃げるように厨房を出て行った。 「悠星君ほんと素直だね」 「だな」 慌てて出て行く悠星の後ろ姿を見ながら、辰正と美香は笑った。

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