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第71話
「荷物は?」
「ここ置いたままでいいって」
海の家での最後の仕事を終えた悠星達は海へ入る準備をしていた。
「もう行くぞー?」
先に準備を終えていた雅樹と亮介が、悠星達の様子を見に来た。荷物に手を突っ込んだまま彼らを見ると2人は手ぶらだった。
「あれ、何も持ってない…?」
「水着さえあれば大丈夫だよ。ここまで近いしね。防犯もしっかりしてるから」
きょとんとしている悠星に、亮介が応えてくれた。
「そりゃそうか。悠星、行こうぜ」
立ち上がる翔太に続いて、悠星も雅樹達の元へ向かった。
あまり人のいないところを選んで海へ入る。久々の砂の感じにドキドキしていたので、横から忍び寄る翔太には気付けなかった。
「っ!しょっぱ!」
思い切り顔面に水を掛けられる。咄嗟に手でガードしたが、海水がもろに口の中へ入ってきてしまった。こんなにしょっぱかったっけ…と、頭の片隅で思いながら、すかさず反撃する。
「うおっ、やめろって!」
突然横で始まった水の掛け合いに雅樹と亮介は笑っていたが……。
「先輩達何笑ってるん、すか!」
バシャッ!!
「んっ」
「ちょっ!」
澄まして見学している二人に、翔太と悠星が思い切り水をかけた。見事に命中し、頭からびしょ濡れになった二人を見て笑っていると、彼らがゆらりとこちらを向く。
それからはもちろん、4人で水の掛け合い。気付いた時には誰もが全身びしょ濡れだった。
「はー…、疲れたー」
悠星は浮き輪を使って水にゆったりと浮かんでいた。その浮き輪に掴まるように、翔太も一緒ん浮いていた。
「誰かさんがはしゃぎすぎるから…」
どこか楽し気にこちらを見る翔太に、悠星は軽く海面を叩いた。
「うわっ」
「最初に水ぶっかけてきたのはそっちだろ」
ジト目で翔太を見ると、彼も負けじと悠星を見てきて。
「ははは…っ」
どちらからともなく笑い合った。
「なあ、翔太って泳ぐの得意?」
そんな彼らの元に、近くで同じように浮いていた雅樹と亮介がやって来た。
「まあまあっすよ。競争します?」
翔太の好戦的な目に、雅樹はニヤッと笑った。
「何か賭けましょうよ」
「んー…じゃあ、帰りの新幹線でどっちが悠星の隣になるか」
「いいっすよ」
「はあ?」
一体どこにメリットがあるのか分からない提案に、逆に悠星が疑問の声を上げた。しかし彼らは悠星のことなど気にもせず、コースを決めてスタート地点へ向かってしまった。
残された悠星は、審判役(雅樹が決めてた)の亮介と、スタートへ向かう雅樹達の後ろ姿を見つめていた。
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