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第72話
「悠星はモテるな」
あっけに取られている悠星を見て、亮介はクスクスと笑っていた。
「いや別に嬉しくないですよ。ていうか勝手に賭けられるのもどうかと思うんですけど」
「ははっ、まあそうだな」
スタート地点の目印の岩場に着いたらしい二人が、もう一度コースのおさらいをしているようだ。こちらを見ながら二人で話している。
「…悠星」
「はい」
「楽しかったか?」
そう言って悠星を見る亮介は、凄く優しい顔をしていた。胸の内側からじんわりと温かくなるようだ。
ふと前方を見ると、雅樹が大きく手で丸を作っていた。それを見つけた亮介が、口の横に手を当てて合図を出す。
「位置について…よーい…ドン!」
意外な声量にビクッとしながら、雅樹と翔太の勝負は始まった。二人とも猛スピードでこちらに来るので若干ビビりながらも、彼らのレースを見届ける。
「さすがサッカー部…」
「…楽しかったです」
雅樹と張り合う翔太へ、亮介が真面目に関心していて。そんな彼を横で小さく笑った悠星は、亮介に向き直ってにこっと笑った。
「また、来たいです」
悠星の照れたような笑みを見て、亮介は一瞬驚いてからふっと笑った。
「もちろん」
その瞬間、水の音がどんどん大きくなったかと思うと、ザバンッ!と誰かに抱き着かれた。またしょっぱい海水に顔を歪めると、目の前にいたのは雅樹だった。
「俺の勝ち」
太陽の光を体中に浴びて、キラキラと反射させながら雅樹が笑った。
いきなり抱き着くなとか、海水しょっぱいだとか、俺はそんな勝負許可した覚えはないとか言いたいことはいっぱいあったはずなのに。雅樹の無邪気な顔を見ているともう笑うしかなかった。
「はは、おめでとう」
困ったように笑いながらそう言った悠星の顔をまじまじと見つめた雅樹も、一緒に嬉しそうに笑った。
「あーくそー!あとちょっとだったのに!!」
雅樹に1mほど差をつけられてゴールした翔太が悔しそうに雅樹を見た。
「俺に勝つなんてまだまだ早ぇんだよ」
「でも先輩帰宅部っすよね?なんでそんな早いんすか?」
「昔から運動神経いいもんな。勉強出来てスポーツ出来て」
亮介が雅樹を見ながら笑って言った。
「…昔から?」
亮介の一言に悠星が静かに尋ねる。その疑問に逆に答えたのは、悠星に抱き着いたままの雅樹だった。
「あれ、言った事無かったっけ?何気に小学校からの付き合いなんだ」
「へえ!腐れ縁ってやつすか?」
「でも俺一度引っ越してるから、ずっと一緒だったわけじゃないけど」
「中3の時、予備校で再会してさ」
「あーなるほど。…悠星?」
黙って3人の会話を聞いていると、翔太が下から顔を覗き込んできた。
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