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第73話
「…ん?」
ハッと意識を取り戻して翔太を見ると、どこか困ったような顔がこちらを覗いている。
「どうした?疲れた?」
「…や、なんでもねえよ」
翔太の頭をくしゃっと撫でると、彼はにへらと笑って頭を寄せて来た。まるで犬みたいだと翔太を見ていると、雅樹がその手を掴み自分の頭へ乗せてしまう。
同時に彼に腰を掴まれ、まるで正面から抱きしめるように囚われる。悠星よりも背が高くて、細身なのにがっしりしている体。そんな雅樹の体温を感じれば感じるほど、自身の心臓の音が急にうるさく鳴り響く。
「まさき…!」
手を、腰を離そうとすればするほど力は増していき、海だというのに体が火照って仕方がない。
チラッと上目で雅樹を見ると、ムスッとした顔がそこにある。
「悠星の手はここ。分かった?」
雅樹の頭に乗せられた手を再度強調させられる。一刻も早く逃れたいのに、彼に囚われた体がいう事を聞いてくれない。
彼の目を見たまま、ゆっくりとそのまま手を頬へ滑らせる。すると、雅樹はふっと目を細め、頬を摺り寄せてくる。
「…好き」
2人だけにしか聞こえない声で雅樹がそっと囁いた時。
「お前らいつまでやるつもりだ…」
呆れた亮介の声に、現実に引き戻される。
ぶわっと顔が真っ赤になった悠星は、勢いよくしゃがんで彼の腕の中から逃れて亮介の背中へ隠れるように移動し、そのまま体を冷やすように水中へ腰を下ろした。
「悠星!なんでそっち行くの!」
「それ以上近づいてきたら帰りは翔太が隣だから!」
バシャバシャとこちらへ来ようとする雅樹に向かってそう叫ぶと、彼の動きがぴたりと止まる。
「………卑怯だぞ」
「だって!!」
「お前らほんと懲りないな」
「なんでもイイすけど俺を巻き込まないで…」
久しぶりの海は、日差しとは違う熱も内に溜め込んだまま過ぎていった。
辰正と美香に見送られ、4人は新幹線へ乗り込んだ。もちろん悠星の隣は雅樹だ。満足げな雅樹に苦笑しつつスマホを見ると、深月からLINEが来ていた。
『何時にこっち着く?迎えに行くよ』
じっとスマホを見つめた後、雅樹をちらりと見ると彼と目が合った。若干の気まずさにふいと目を逸らすと、逆にぐっと顔を近づけられる。
「な、何」
「何で顔逸らすの」
「間違えた」
「何それ」
「…」
数秒の見つめ合いののち、雅樹は悠星から離れると背もたれへ体重をかけた。
「ほんと悠星ってかわいいなあ」
ニヤニヤしながらそう話す雅樹に、悠星はただからかわれていたことに気付き顔を赤くする。
「ほ…、ほんっとお前何なの!!」
今度こそ悠星は雅樹へ背を向けた。
「疲れた!寝る!」
そんな彼の様子を見ながら、雅樹はふっと優しく笑った。
「うん、おやすみ」
てっきり寝るなと駄々をこねられると思っていたが、雅樹は悠星の頭をそっと撫でるだけだった。
急激に眠気に襲われる中、かろうじて深月へ返信をした悠星の意識はすぐに落ちていった。
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