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第75話

長い道のりを経てようやく帰ってきた4人は、駅の改札を出てまだまだ暑い日差しを浴びる。 「長かったなー」 翔太の声に悠星も隣で頷く。 「俺半分以上寝てたわ…」 「寝ぼけてこけそうになってたもんな」 「っ!蒸し返すな!」 翔太の笑い声にじわじわと顔が熱くなった時、悠星のスマホのバイブ音が鳴った。画面を見ると、予想通りの人物からの着信で。 「あ、ごめんちょっと…」 翔太達に断りを入れて少し離れて電話を取る。…妙に早く鳴る鼓動を落ち着かせるように深呼吸をしてから。 「もしもし」 『悠星?着いた?』 「うん。…ていうかタイミング良すぎるんだけど…」 『はは、そりゃあ…』 その時急に肩に腕が回された。 「ひっ!」 大げさに肩がすくみ上り、誰だと急いで後ろを振り返ると。 「おかえり」 「………ただいま」 そこにはくつくつと笑う深月がいて、悠星はものすごく不満げに返事を返すのだった。 「あれ、深月さん!」 その時、悠星の声でこちらを振り返った翔太が嬉しそうに声を上げ、彼らの所へ寄ってきた。 「おー翔太!久しぶりだな。悠星と店来てくれた時以来か?」 「そうですね。こんなとこで会うとは思いませんでした」 「普段は店に居るからな」 「あれ、じゃあ今日は?」 「休みだよ」 「あ、なるほど」 納得する翔太に、悠星も内心同じことを思っていた。 「あ、俺たち実は旅行に行ってまして…」 「うん、悠星から聞いた。…後ろの人達が一緒に行った先輩達?」 深月は翔太の奥に見える彼らを見ながら言った。悠星は思わず顔を下げ、雅樹達から視線を逸らす。そして声を掛けられた雅樹は、深月の方へ一歩足を進めた。 「前にお店来てくれたよね」 「覚えててくださったんですね。そうだ、料理美味しかったです。…また機会があれば是非伺わせてください」 「もちろん」 にこやかに会話が進んでいくが、2人の間からは火花がバチバチ散っている。 一刻も早くここから離れたかったが、雅樹と話し始めてからますます深月の絡んでくる腕が強くなったのでそれは絶対無理だった。 どうやってこの場を乗り切ろうか。 そんな事をずっと考えいた悠星は、無意識にきゅっと深月の服を引っ張っていた。 気付いた深月が、ん?と優しい表情を向けてくる。流れていた不穏な空気が無くなり安心した悠星は、深月にふっと微笑みかける。 「…帰ろ?」

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