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第83話

雅樹とは学校も一緒だった。 何なら、たまたま雅樹の転校初日に玄関先でばったり会って、たまたまそのまま一緒に登校することになっていた。彼の母親曰く、 「悠星くんが一緒なら安心ね。雅樹のことよろしくね」 …だそうだ。 ウチの母親と似たようなことを言って、そのままにこにこと家の中へ戻って行ってしまった。 ……悠星と連れ立って外に出て来たときは、凄くめんどくさそうだったのに。 そんな雅樹の母をじっと見ていると、ふと肩を叩かれる。 「悠星」 ハッとして後ろを振り返ると、自己紹介した時と変わらない笑顔がそこにはあった。 「案内してくれる?」 「……」 悠星はムスッとしながら、雅樹に背を向けて歩き出した。 ……いつかぜったいこいつのエガオを崩してやる、とひっそり決意をして。 「悠星くん、今の…誰?」 雅樹を職員室へ送り届けたあと、廊下で同じクラスの女子とばったり遭遇した。 「…転校生」 「えっ、ウチのクラス!?」 珍しい存在にワクワクと声を弾ませた女の子を見て、悠星は慌てて訂正した。 「ちが…、6年生だよ」 「あ、なんだ。えー、ウチのクラスだったら良かったのにー」 「…うん」 残念そうにする女の子に小さく同意しながら、そのまま2人は並んで教室へ向かう。 「でも一緒に来てたのは何で?」 「えと…、俺の家のとなりに引っ越して来たから…」 「へえ!そうなんだ!いつ?」 「一昨日…」 「もう仲良くなったんだね」 「…別に」 「そう?」 質問ばっかりされてイライラして返事が素っ気なくなってしまう。ハッと気づいて焦りを覚えるが、特に気にしていなかったようでホッとする。 その時ふと、今日の朝話した時の雅樹のエガオを思い出す。初対面の時も、朝の時も、何も変わらないエガオだった。 ……あんなヤツと仲良くなんかなりたくねえし。 やっぱりムスッとした悠星は、ちょっと早歩きで教室へ向かった。 雅樹が転校してきてから今日で1週間。算数の授業中、校庭のにぎやかな声が聞こえてくる。何をやっているのだろうかと目を向けて見ると、6年生が体育の授業でドッヂボールをやっていた。 互いの陣地は残り一人ずつで、もう決着がつきそうだ。白熱する試合の中、緑のゼッケンを着たチームの内野選手が自分に向かったきたボールをがっしりと身体で受け止める。 わっと歓声が上がると同時に、ボールを持った奴は相手に向かって思い切り振りかぶった。放たれたボールは相手の足元に目がけて飛んでいく。相手はボールを受け止めようとしたが、手から弾かれてしまった。 そこで先生の鋭いホイッスルが鳴り響き、試合は終了した。 勝者がゼッケンチームだと先生から発表された時、最後のボールを放った奴へとみんなが一斉に駆け寄った。 同じチームの仲間に囲まれて真ん中で照れくさそうに笑っている男子を見て、悠星は軽く目を見開いた。 "お隣さん"は、もうクラスメイトと仲良くなったらしい。 朝学校に行くときや、学校で会った時。何かしら毎日顔を合わせるたびに声を掛けられ会話をして。どうにかあのエガオを崩せないかと試してみるけど中々上手くいかず。 なのに今は楽しそうに笑っている。 俺はあんな顔を向けられたことはまだないのに。何なら段々小さい子に向けるような目になってきている気がしてイライラするし。 だから、友達に向けるような気安さを向けてもらえないことに納得がいかないというか。 もやもやするというか。 俺の方が先に知ってたのにとか思わないこともないというか………… 「~~~!!!」 自分の妙な思考にむしゃくしゃして、悠星はそのまま机に突っ伏した。…が。 「田口君?体調悪いの?」 伏せかけていた頭を勢いよく上げると、問題の見回りに来ていた先生がいつの間にか横に立っていて。 悠星は頭をぶんぶん振って、すみません…と謝った。 あ、あ、あいつのせいで~~~~~!!!!!

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