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◯キャバ嬢あるある。
今夜は早く寝ようかと思っていたが、出ることにした。真咲 から『暇ぁ!』とメールが来たからだ。
それに、親父がいないのに、やけに家の中が気詰まりで。ドア二枚を挟んでも感じる知玄の圧が凄い。いや、そう感じてしまう俺がおかしいのか。
「それをうちらの前で言うん!」
カウンターの中で真咲はそう言ってぷっかーっと煙を吐き出した。俺と歳が一個しか違わないのに、凄い迫力だ。
「えー、だって真咲ちゃん達はキャバ嬢じゃないじゃん」
高志 さんは悪びれない。カウンター席を陣取るいつもの面々は、「キャバ嬢って、ちょっと仲良くなると“実は私にはこんな暗い過去があってぇ……”って告白して来がちだけど、そういうの俺らは求めてないから。」という話題で盛り上がっている。
「知らねぇけど、それってただの自己紹介なだけじゃないんすか」
「うわぁ、若い子入ったからってカッコつけてるよ。あからさま過ぎて引くわ」
真咲はゲラゲラ笑って言う。
「こんなヤツに騙されたらダメだかんね。コイツ、自営の長男だし、付き合うとめんどいよ」
先輩に諭されて、新人さんはリアクションに困っていた。
「そーそ、俺のいい所は顔だけだから」
「自分で言うなし」
俺が煙草を灰皿に押し付けると、新人さんはすかさず灰皿を新しいのに交換した。
「お作りしましょうか?」
「じゃ、お願い。薄めで」
「薄め」
一服点けて目を上げたら、新人さんは俺のボトルを持ち、真剣な目でグラスを睨んでいた。
「ストップって言ってくださいね!」
「あ、はい」
この店、また変な子を雇ったな。まあ、乳が大きいからいいけど。顔も、よく見たら可愛いし。眉毛が太くて、素朴で。
水滴をきれいに拭われたグラスが目の前に差し出された。新人さんがすごく真剣な目でこっちを見るので、
「ありがとうございます、いただきます」
まるで知玄が乗り移ったかのように俺は言って、素直にグラスに口をつけた。新人さんは素朴な笑顔を見せた。この子もそのうち、実はまだ処女なんですとか、こう見えて結構経験あるんですとか、宣 うようになるのか。この店の女の子達は、そういうことをぶっちゃけるのが俺らとのコミュニケーションになると思い込んでいるきらいがある。
「名前、なんていうの?」
「茜 です」
「茜ちゃんか」
こんな掃溜めに紛れてるより、知玄の隣にでもいる方が良さげな子だ。
ポケットで携帯が鳴った。
「さて、そろそろ出よ」
「何でぇ、知白 。まだ来たばっかじゃん」
高志さんが肩を当ててくる。
「明日も来ますよ。来月は祭りの稽古だし、遊べる時に遊んどかないと」
「おっパブ行こうよ」
「やだよ。俺、女の子と戯れるなら密室がいいもん。ねぇ」
と言ったら、茜ちゃんは目を輝かせて「祭り……」と呟いた。やっぱ変な子だ。
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