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◯「そんなの平気です」と弟は言う。
うとうとしかけたら嫌な夢を見て、携帯の鳴る音で目が覚めた。なんだ誓二 さんかよ。まったく、しつけぇなこの人も……。そんなに俺がよければ、こうなる前に連絡してくればよかっただろ。だがそうはしなかった。結局それが答えなんだ。
『誓二君をよろしくね』
いや、ダメ。無理。こうなっちまったのは、俺には不可抗力だし。
「お兄さん?」
もぞもぞと、知玄 の手が俺の腰を捕まえた。
「電話ですか。もしかして、今から出て来いって、誰かに誘われたとか?」
「ううん」
今朝は早起きして出張だったから、夜八時をちょっと過ぎたころだけど、もう眠い。だから誰が呼ぼうが天変地異が起きようが、今夜は出ねえって。
携帯は、電源を切って枕元に置いた。お休み。布団に潜り込んでまた目を閉じる。さっきの夢の続きは見たくねぇよなと思っていると、背中の方で、知玄がもぞもし始めた。知玄の手が俺の身体の前を探り、腰の辺りになんか熱いものが当たる。
「お兄さぁん」
「何、やりてぇの?」
「はい、お恥ずかしながら……」
そういや昨夜もやりたそうにしていて、やりかけたところへ電話がかかってきて、有耶無耶のぐだぐだになったんだった。
「しょうがねぇな。静かに、あとゴムだけはちゃんとしろよ」
どういう経緯でこうなったんだろうが、実の兄弟だろうが、俺と知玄は番であって、αに性欲を我慢させ続けるというのは無理だし、可哀想で……。
知玄が俺の中に入ってくる。後ろから抱え込んで、ベッド横の壁に押し付けるようにして。音をたてないように両手を壁に置く。
「……っ」
「大丈夫ですか、痛い?」
「平気……」
首の痣のとこ、舐められると気持ちいい。背中に感じる体温がいい。でも声は、出さないように、気を付けないと。
壁一枚隔てたすぐ向こうは階段だ。しかも階段のところは天井が高いから、音がよく響く。この部屋でたてた物音とか声とか、どれくらい響くのかは、検証したことがないからわからないが、遠慮しないでヤると台所まで色々聴こえてくると、高校時代にお袋から苦言を呈されたことはあった。
だが女の子とヤるぶんには「元気があってよろしい」なんつって、うちの親達は見て見ぬふりだ。しかし、相手が男とあっては……何も知らない親父はともかく、お袋は卒倒しちゃうと思うし。
つうかそれ以前に、こともあろうに実の弟とまぐわうとか、そんなことを許す親がどこの世にいるかという話で。
だが知玄は言った。
『平気ですよ。だってこの前、僕らが茶の間で寝落ちしてたのを見ても、お母さん引いてなかったじゃないですか』
だから一緒のベッドで寝るくらい余裕だろっていうんだ。やってる現場だけ見られなければ。
大胆不敵な奴だ。どうせ男同士だし、互いに付き合ってる相手もいない。誰にも迷惑かけてないんだからセーフだっていうんだ。そうだな、俺がΩでなかったら、その通りかもしれない。
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