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side さくら 「まぁ…そうだけど…」 「それに、私は特に才能もないし、勉強も嫌いだったの。だけど、誰かを幸せな気持ちにしてあげられる仕事がしたいなって思ってたのね。で、あの人に相談したら、ソープはどう? って。最初は、自分の妻に何て酷い事言うの? って思ったけど、あの人とは性生活がないからね…、あの人なりに考えたのかも。で、働いてみたら自分にあってるみたいって思うようになったの。この仕事って、肉体労働だし、色んなお客さんが来るから大変なこともあるんだけどね、自分も気持ちよかったりするし、お客さんも良い気分になれたらそれで幸せ。そんな感じかなー」  2人でヌルヌルのマットに寝そべりながら、そんな話を続けていた。色んな人生があるんだな…って改めて思った。 「そうそう。実は私も、そろそろこの仕事を辞めようかと思ってるんだ」 「そうだったんだ?」 「うん。あの人がね、子作りの為ならセックスしても良いよって最近言うようになったの。もし出来なかったら、体外受精してでも…って。何だか自分のDNAを残したくなったみたい。私は迷ってたから、まだお店には話してなかったんだけど、さくらちゃんの話を聞いて決心したわ」 「そっか。なんか、良かったよ。ルリコさんも幸せになれよ」 「いやだ、今だって幸せなのよ。もっともっと幸せになっちゃうからねー」  ルリコさんの話を聞いて、俺は幸せな気持ちになった。  最後に、「このサービスは無いんだけど、さくらちゃんは特別ね」って言って、ルリコさんがチュッて唇にキスをしてくれた。 その瞬間、おとなしくなっていた俺の息子が急に元気になったもんだから、ルリコさんにメチャメチャ笑われた。  何だか色々恥ずかしい事もあったけど、ルリコさんになら見られても良いか…って思った。ルリコさんは、そんな風に感じさせてくれる人だった。だから、ママも結婚しても良いって思えたのだろうし、2人の間の子供が欲しいって思えたのかも知れないな。  それから、ソープを後にして、駅に向かいながら怜に連絡を入れてみた。だけど、駅に着くまでに怜から連絡は来なかった。 「何だよ…。怜の奴、まだやってるのかな?」  そう思いながら、連絡を待って駅でしばらく電車を見送った。だけど、待ちきれなくてしまい、俺は家に帰ることにした。一緒に食事して帰りたかったけど、仕方ない。  ちょっとブルーな気持ちで電車に乗った。  駅についた時、もう一度スマホを確認したけれど、怜からの連絡は入っていなかった。もし、まだエロOLの所に居たら…と思うと、電話をする気にはなれなかった。 「チェッ…」  ルリコさんの所で、色んな意味でスッキリしてきたのに、すっかり気分が落ちてしまった――。

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