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1章 第15話 side原田

Side原田 「お、浩一!! おはよう!!」  去っていった後ろ姿を少しの間見つめていたら、背後から元気な声が聞こえてきた。振り返ると、最近気になっている狩野雅貴が手を振りながらこちらに走り寄ってきていた。  副会長の律が、彼がお気に入りなのだというので物珍しさに声を掛けてみたら、確かに面白い奴だったので益々興味が沸いた。明るくて、この学園の特色に染まっていない、人との壁があまりない奴。  雅貴と二人、肩を並べて一年の教室に向かう。  送ってやろうというと遠慮するようにいいよと元気な声で言われたので半ば無理矢理ついていく。俺の好意を断るなんて面白い奴だ。  編入してまだ日も浅い雅貴だが、どうやら彼のお気に入りなのが、須賀真澄らしい。確かに、綺麗な顔立ちをしている。  この間、新歓の時に倒れた須賀を心配し、見舞いに行くと言った雅貴にくっついて保健室に行った。その時、眠っている須賀を見て俺はどきりと胸が高鳴った。  黒い瞳と目が合った時思わず目を逸らしてしまったのは俺らしくないと思ったが、あいつと目を合わせると何故か心臓が持たない気がした。  綺麗な顔立ちを上手く眼鏡で隠している。黒い髪に黒い瞳が綺麗で、透き通るような白い肌が、酷く目に毒だと思った。  どうやら須賀に対しては、会計の百合成瀬もご執心らしく、最近妙に仕事を早く終わらせたがると思ったら、そこに理由があった。特に俺たちへの支障はないのだが、強いて言うなら、つまらないと喚く双子の相手をするのが面倒だ。  噂によると槙とも顔見知りという話があるし、須賀真澄はどうにも不思議な生徒だと思う。 「浩一、今日昼飯一緒に食おうぜ! 俺にな、真澄がお弁当作ってくれてたんだ! いいだろ? お前にも一口やるよ! な!」  雅貴の教室についた時、明るい声で彼にそう言われて俺はふっと微笑んで頷いた。  じゃあ、昼休みに生徒会に来るようにというと、ぱあ、嬉しそうに口角を上げて、いいのか? と確認してくる雅貴に頷く。  楽しみにしてるぜと教室に入っていく雅貴を見送って俺も自分の教室へと足を向けた。  自分の教室に向かっている途中、一人の教師とばったりと出くわした。  世良孝明というその男は国語教師で、一年Bクラスの担任。顔が良く、授業もわかりやすいと評判で、本人の意思で、親衛隊こそないが、生徒に絶大な支持を得ている。 「おっ、原田じゃねえか。狩野の送りか?」  にっと口角が上がった自信のありげな笑みが印象的な男。 「そうだが、アンタはなんでこんなとこに? Bクラスは別校舎だろ?」 「ああ、いや、Sクラスにちょっと用事があってな」  手に持った紙をピラピラと振ってアピールして見せる世良になるほどと小さく頷く。俺の進行方向から来たということは恐らくSクラスの生徒から回収してきたのだろう。  Sクラスだけは別棟に分けられているのでわざわざそれを取りに来たということは、急ぎなのだろうか。  腕の時計を確認して世良が歩き出した。もうじきチャイムが鳴るぞという男に、俺も慌てて反対方向に歩き出す。すれ違いざまに、世良が目をすっと細めて口を開く。 「お前も、百合も、俺の可愛い生徒にあんまりちょっかい出すのはやめてやれよ」  そういって去っていく男をばっと振り返って見る。俺の生徒、とは受け持っているクラスの、つまるところ須賀のことだろうか。  思わぬ言葉に俺は少し動揺する。 「なんで俺が須賀にちょっかい出すんだよ」  しばらくしてやっと口から出たのはそんな言葉で、しかしそれは誰に聞かれることもなく消えた。

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