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第14話

恩坩と青藤が身を清め、すっかり陽も暮れた頃。 まだ以前の屋敷に居た数には満たぬが、既に居付く妖達は、恩坩によって大広間に召集された。 狐坊、双葉は勿論、既に青藤の後を追い遊んだ鳴家や、物隠しの姿もある。 襖には、先程辿り着いた佐代の姿もあった。 「さて、これで全部か?」 上座に座った恩坩が問えば、妖達は無言で頷いた。 恩坩の横に置かれた座布団の上には、誰も居らぬが、恩坩の膝の上に二尾の狐が丸くなって撫でられている。 「これより、私は青藤に託した尾を返して頂く。立会いは皆の者だ、確と見届けよ」 一斉に妖達がざわめき立つ。 四人の妖は、それがどういう事なのか把握するなり、言葉を失い硬直してしまった。 恩坩が一つ咳払いをすると、室内に静寂が訪れる。 妖達の固唾を飲む音が、響くだけとなった。 狐の頭を撫でていた手が、尾まで下りると、三人の妖は目を背け、佐代は今にも消えそうな程に影を薄くする。 そうすると、遂に、尾が消え掛かり、恩坩の着物を透す程にまでなり、やがて消え失せた。 尾のお蔭で、形を留めていた狐も、煙の様に姿を消し、恩坩の手に光る球が残る。 それこそが、今この世での青藤の本の姿。 見せ付けるかの如く、その球を翳す。 恩坩の尻には、九つの尾が戻っていた。 「次に」 静かに放った恩坩に、何時の間にやら大広間一杯に集った妖の目が向く。 「此れを、この藤の守神としたい」 何か異論のある者は、と尋ねるが、部屋は静かなものだった。 恩坩は、懐から一房の藤の花を取り出すと、空いた席の上へと乗せる。 「ならば、宜しいな?」 其れに対する返答を、待ちもせず。 青藤の御霊は、藤の花と重ねられたのだった。 「私は、あの大藤の、守り神となり、──……一生、お前の傍に添い続けよう、か」 「……何を」 「ん?お前が言うた事を繰り返しただけの事」 「黙れ」 「黙らぬ」 「生意気を言い続けると、鬼が憑くのだぞ」 「おお、それは困ったものよ」 へらへらとだらしなく笑う恩坩に、床の中で抱かていた青藤は、不意に起き上がると、恩坩に覆い被さる。 長い髪が上手く屏風の様な役割を果たし、外からは見えぬ様に二人の顔を隠した。 「食うぞ」 「食わさぬ」 「今は私が優位だ」 「だが、食わさぬ」 青藤の頬を撫でていた手が、首の裏へと回り、ぐいと顔を引き寄せる。 息が触れ合う距離の中、視線を外さぬ二人は、流れの儘に唇を重ね、長く長く離そうとはしなかった。

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