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第3話 ※

 Gストリングは陰茎部分以外にほとんど布がない。そのため歩くたびにデニムと地肌とが擦れて、司にもどかしい刺激を与える。  撮影中はおくびにも出さなかったが、実は司はずっと羞恥に燃えていた。単純に人前で際どい姿を晒したからではない。その証拠に、情欲を胸中で燻ぶらせながらも、撮影中に司が自身を勃ち上がらせることはなかった。  しかし撮影が終わり、あの人が待つ部屋に帰ることを考え始めると、途端に自分が破廉恥な下着を身に着けているということを意識して、じわじわと体温が上昇してきた。羞恥心の果てにあるのは、大抵は途方もない快楽だ。焦らされた分だけ、弾けた時に燃え上がる。  そうして人知れず倒錯的な気分のままスタジオを出た司は、ただ一人のことだけを考えて帰路についた。  同族が多く紛れる夜の街はどこか淫靡な香りを放っていて、その場に溶け込んだ自分がひどくいやらしい存在になったかのような錯覚を覚える。平静を装いつつも、家までの道をたどる司の理性は崩壊寸前だった。  火照った身体を持て余しながら人の間を縫って歩いていると、ふと目の前に現れたピンク色の看板に目が留まった。そこがアダルトショップであるというのは、看板を見れば一目瞭然だった。  のぼせた頭のまま、司は吸い寄せられるように店内に入っていった。  店内を進んでいくと、すれ違いざまに男がぎょっとした顔でこちらを振り返った。元々その手の人間が集まりやすい街ではあるし、ましてや司は今やポルノ界の枠を超えた有名人だ。それだけにアダルトショップの店内で見かけたとなると、その衝撃は計り知れないだろう。  決して広いとは言えない店内には、所狭しと商品が並んでいた。入り口付近に並べられた有名なメーカーのオナホールでできたタワーに、思わず噴き出してしまう。  少し進むと、今度は壁一面がAVで埋まっていた。土地柄かゲイビデオの比率が若干多く、わずかにではあるがTSUKASAの出演作も置かれていた。『気まぐれ淫乱キャットVol.2 ~ちん〇ん嗅いだらすぐ発情しちゃうTSUKASAにゃん~』は、ひどいタイトルのわりによく売れている。  拘束具や電動マッサージャーが立ち並ぶフロアを抜けて、店内の奥の方に位置する細い階段を使って2階に上がる。真っ先に目に飛び込んできたセーラー服は、実際に学生が着用しているものと比べるとはるかにチープなつくりをしている。  司がこの店を訪れたのは、同居中の恋人に何かしてやれないかと思い至ったからだった。最近はずっと忙しそうにしていて、その分セックスも長いことお預けを食らっていたのだが、今日で仕事がひと段落つくらしい。  撮影に向かう前にそう告げられた司は、それはもう一日中気が気じゃなかった。久しぶりに恋人の肌に触れることができるのだ。想像しただけでフワフワと気持ちが宙に浮いて、脳内はセクシャルな妄想で埋め尽くされた。  だからといって、「上下ともエロ下着着用で帰宅」なんて発想はあまりにも安直過ぎやしないだろうか。そうは思いつつも、今にも溢れそうな情欲は、司から冷静な判断力を奪っていった。もっとも、恋人たちの営みに正気なんてものを求めたら、こんな店は存在しないだろう。  コスプレ衣装のコーナーを少し進むと、目当てのコーナーにたどり着いた。所狭しと並べられたセクシーランジェリーはほとんどが女性向けの商品だったが、細身の司なら問題なく着用できそうなものばかりだった。  自分以外に誰もいないことを確認して、商品を手に取る。アンダーと肩紐以外にほとんど布がなく、乳首の部分だけがレースで覆われたパープルのブラは、明らかに性欲を煽るためのデザインだ。スタジオから履きっぱなしのGストリングと似た色のそれを、司は迷わず購入した。  そわそわと落ち着かない様子のまま最寄り駅に到着すると、司はトイレの個室で下着をこっそり着用した。万が一下着のパープルが透けて見えてしまっても、コートを着込んでしまえば問題ないだろう。  帰宅後にくつろぐ暇もなく求めあった時、自分の服を脱がせた恋人はどんな反応をするだろうか。想像するだけでどうしようもない気分になって、勃起したものの先端からとめどなく汁が溢れだす。  スキニーパンツをずり下ろして、後ろに指を差し込む。何度も恋人のものを受け入れたそこは、司の指を容易に飲み込んでしまうようになっていた。 「っ、ぁ」  雫をこぼす先端をいじりながら指の抜き差しを続けていると、司はすぐに小さく絶頂を迎えた。だけど自分の手で処理をしたところで、そこに残ったのは虚しさだけだった。それどころか、かえって恋人の手が恋しくなる。  熱っぽくため息をつくと、司は駅を出て真っ直ぐに家を目指した。一刻も早く触れてもらわないと、このままおかしくなってしまいそうだった。

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