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第4話 ※

 裏返ってしまいそうなほど跳ね上がる心臓を押さえつけてインターホンを鳴らすと、ほどなくして一人の男が司を出迎えた。 「おかえり。思ったより遅かったね」 「ん、ただいま。ちょっとだけ撮影が押しちゃって」  人目がないのを確認して、玄関先で抱き合う。エプロン姿の博臣からは、かすかにビーフシチューの香りが漂ってくる。 「仕事は片付いた?」 「うん。今日が締め切りの分は昼のうちにデータ送ったから、飯作って待ってた」  後ろ手でドアを閉めながら、博臣は穏やかにそう告げた。料理研究家である博臣(ひろおみ)は、主に料理本の監修で生計を立てている。ただでさえ研究や試作で忙しいのに、最近は数本の連載も持っていて、ここ数日は雑誌に載せるレシピやエッセイの締め切りに追われているようだった。 「そうなんだ、お疲れ様」 「司もお疲れ。下着のモデルだっけ? 雑誌はいつ発売なの?」 「確か来月の下旬だったと思う」 「へぇ」  博臣が意味ありげに目を細める。嫉妬を微塵も隠そうとしない態度に、司は胸がぎゅうぎゅうと締め付けられるのを感じた。付き合った当初から司の職業に理解を示してはくれているものの、撮影を終えて帰るたび、博臣はいつも面白くなさそうな顔をする。 「その雑誌ってどのくらい流通するの?」 「一般の書店ではほぼ取り扱わずに、ほとんどアダルトショップで販売されるはず」  コートをハンガーに掛けながら、司は背中に博臣の熱い視線を感じていた。嫉妬や独占欲が混ざりに混ざった眼差しが、まるで衣服の下の下着を透かし見るかのような勢いで注がれている。  司がねだるように博臣を見つめると、すかさず抱き寄せられて、深いキスを落とされた。比較的小柄な司と大柄な博臣の間には、約15センチほどの身長差が存在する。そのため立ったままキスをすると、背の低い司はかなり腰を反らせることになる。かなりきつい体勢だが、その分博臣が貪欲に自分を求めてくれていると実感できるため、まったく苦ではなかった。 「んっ……く、んうっ……っは」  舌を絡ませながら、司は薄目を開けてこっそり博臣の表情を覗き見る。眉間に皺の寄った苦しげな表情は、博臣が極度の興奮を噛み殺している証拠だ。  口付けたままぐりぐりと腰を押し付けられると、デニム越しに博臣の張りつめた陰茎を感じた。司のものも同様にぱんぱんに膨らんでいて、細身のスキニーパンツの布地を押し上げて主張している。 「博臣、もう寝室まで待てない、ソファでしてよ」  涙交じりの声で司が懇願すると、博臣は司の腰を抱き寄せて、そのままリビングにあるソファへと導いた。スタジオにあった艶のある黒とは違って、モダンな室内に溶け込むシンプルなブラウンのソファだ。背が高く体格のいい博臣が寝転がって、そのまま眠れるほどの大きさがある。 「またカバーを洗う羽目になるな」  口ではそう言いながらも、博臣はためらうことなく司をソファに転がした。仰向けに寝かされて、勃起した陰茎の形があらわになる。静かに佇む博臣の視線がその一点に注がれると、司は顔を赤らめた。  司に覆いかぶさるようにソファに乗り上げると、博臣は司が着ているニットをめくり上げた。すると現れた淫靡なデザインのブラジャーに、博臣は一瞬面食らったような顔をした。 「何だこれは」 「喜ぶかなと思って」  ちょっとしたサプライズですと、司は冗談っぽく答えてみせた。レース越しにさらされた乳首は、むき出しになると思いのほか心もとない。ちょっとやりすぎたかなと心の中で舌を出していると、突然博臣がキュッと胸の飾りを摘まんだ。 「あぁっ」 「まさか司にこんな趣味があったなんてなぁ」  先端を摘ままれたまま軽く左右に捻られて、司は甲高い声を漏らした。薄いレース越しに刺激されることで摩擦が生じて、いつもよりも刺激が強く感じた。 「や、博臣、そこばっか、やだっ、ぁっ」  上ずった声で懇願すると、博臣はようやく司のスキニーパンツを脱がせた。撮影時から着用したままのGストリングの先端には、すでにカウパーでできた染みが広がっている。 「驚いたな。いつからこんなことになってたんだ」 「電車に乗ってた時から……興奮して全然我慢できなかった」 「これはいつから?」  博臣はそう言うと、ブラジャーの紐をくいっと引っ張った。さんざん刺激されてぴんと立ち上がった乳首が擦れて、だらしなく開いた口から甘い声が漏れる。 「帰りがけ、にっ、あ……っ」 「変態だな」  そう容赦なく言い放って、博臣はくつくつと喉の奥で笑った。見れば博臣の性器も勃起していて、パンツの生地を押し上げてぱんぱんに張りつめている。  自分のしたことがとんでもない変態行為だという自覚はある。だけどそれを聞いて興奮する博臣も、かなりの変態と言えるのではないだろうか。そう思いつつも、興奮した博臣にがっつかれること自体は本望だから、とどのつまり両者とも変態なのだろう。  とにかく博臣のやる気を引き出すという目論見は、無事に成功を収めたようだ。

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