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第5話 ※

 Gストリングが覆い隠すのはせいぜいフロントの陰茎部分くらいで、臀部はほとんどむき出しの状態だ。恋人の前にさらされることで、司は初めてその心もとなさを実感した。 「この姿の司が全国……いや、下手したら世界中に晒されるんだよな」  面白くなさそうにそう言いながら、博臣は布で挟むようにして司の陰茎を刺激した。嫉妬に駆られると、博臣は分かりやすく意地悪になる。 「んっ……、やだぁ、意地悪しないで、ぇっ……」  お預けを食らわされた分だけ、与えられた時の幸福感が増していく。だけどそれを理解したところで、一度スイッチが入ってしまえば身体はなかなか言うことを聞いてはくれなかい。  涙と涎でぐちゃぐちゃになりながら、司は上ずった声で「触って」と博臣にねだった。 「博臣っ、お願い、だから、あっ」  泣きながらそう懇願すると、博臣はようやく布地の部分をずらして、司の陰茎を露出させた。臍に届いてしまいそうな程に張りつめたそれの先端を、弄ぶように博臣に撫でられる。 「すごいな。もうこんなに濡れてる」  骨ばった太い指にやんわりと扱かれるたび、司の陰茎がぴくぴくと痙攣する。下手すればすぐにイってしまいそうだった。  腰をのけぞらせながら快楽を享受していると、ふと博臣が屹立をいじる指を止めた。痺れるような感覚がぱたりと止んで、取り残されたような心許なさに思わず泣きそうになる。 「なぁ、何で止めんの」 「だって司、イった後すぐにぐったりするだろ? その前にこっちを解さないと」  博臣はそう答えると、むき出しになった双丘の割れ目にすっと指を這わせた。かろうじてそこを覆っていた細い布地がずらされて、太く骨ばった指がじわじわと侵入してくる。やがて奥まったところにある窄まりにたどり着くと、博臣は指先でそこを軽くつついた。 「もう柔らかいな」  自分でしてきたのか? と博臣が問う声が、熱に浮かされた頭に反響する。博臣は時々こんな風に、何でもないような淡々とした声で司に自白を促すことがある。それがどれだけ相手の羞恥心を煽る行為であるのか、分かっているのだろうか。 「……っ、駅のトイレで、ブラつける時に一緒に」 「駅ってうちの最寄りの?」 「うん、家に帰ったら絶対待てないと思っ、て、んぁっ」  正直にそう白状すると、後孔を弄っていた博臣が急に司の弱い場所を撫でた。第二関節まで飲み込まれた指を腹側にくっと曲げられると、それだけで目の前が閃光に包まれるような、強烈な快感に襲われる。 「あっ、だめ、そこばっかり」 「すぐにこんなことになるのに、外でしたのか?」  意地悪な台詞に込められた怒気から、博臣が言わんとしていることは容易に読み取れた。要するに博臣は、司が外で——博臣の前以外で痴態を晒したことが不満なのだ。 「もし気付かれたらどうするつもりだったんだ」  冷静な声音は司の身を案じているようで、そこに個人的な感情が渦巻いていることは明らかだった。博臣にとっては、司を取り巻く不特定多数が嫉妬の対象なのだ。  ぐちぐちとわざと大きな音を立てて後ろを弄られて、恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだった。だけど博臣の指に自分では届かない深いところを愛撫されると、一人の処理では得られなかった満足感が司の胸に広がっていった。  司の後孔が指を三本飲み込んだのを確認すると、博臣は焦るように下着ごと服を脱いで、そそり立った自身を露わにした。そして司の上半身からニットを剥ぎ取って下着だけにすると、性急な手つきでゴムを開封する。 「もういいか」  後孔に陰茎を突き立てながら、博臣は呻くように司にそう言った。目尻に涙を浮かべながら頷く。ここまで事を進めておきながら、自分の口からそれを言わせるだなんて意地悪だ。「も、だめ、はやく、いれて……」  博臣の問いかけに、司はとろけるようにそう答えた。これ以上待てそうにないのは司も一緒だった。  ほどなくして博臣のものが挿入されると、それだけで「ああっ」と甲高い嬌声が漏れた。  凶悪な質量を誇る博臣の陰茎を迎え入れることができるようになるまでには、過去に相当な苦労を要した。その甲斐あって、司の後孔は今ではすっかり博臣の形を覚えてしまっている。 「動くぞ」  そう宣言して司の両脚を自分の背中に回すと、博臣はゆっくりと律動を開始させた。ずるずると内壁を擦るように突き上げられる。  揺さぶられながら、司はにじむような刺激にもどかしさを感じていた。もっと浅いところにある、強烈な快感を味わえる場所に触れてほしくて、無意識のうちに腰を揺らしてしまう。 するとそのことに気付いたのか、司を穿つ博臣の動きがやや小刻みなものになった。 「あ……っ、そこ、もっと……」  ピンポイントに前立腺を擦られて、司は恥じらう余裕もなく博臣を求めた。あまりにも大胆な恋人の物言いに驚いたのか、感覚に集中するあまりうつむきがちだった博臣が顔を上げた。  至近距離で目が合う。司のことが愛しくて、欲しくてたまらず、求めずにはいられないのだと、博臣の目は雄弁に物語っていた。射貫くような視線は言葉なんかよりもよっぽど司を惹きつけて、離さない。  愛してると口にする代わりに、司は眼前に迫った博臣にキスをした。啄むような口付けはすぐに舌が絡み合う深いものになり、肉体的な快楽とは別の、甘い多幸感に包まれる。 「ん……ぁ、っうぅ……」  唇が離れると、司はいよいよ絶頂が近いことを実感した。昇り詰める感覚から逃げようとして、甘く喘ぎながら身をよじらせる。博臣はその様子をじっと見つめていたかと思うと、不意に司の脚の間で揺れるものに触れた。 「あ……っ」 「もうイきそうか?」  低くかすれた声でそう言うと、博臣は濡れた司の陰茎の先端を指先で弄んだ。前と後ろをいっぺんに攻められてはもう一溜まりもなくて、司は腰を跳ねさせながら声にならない声を上げた。 「あっ、それ、やだっ、ぁ……っ」 「嫌なんて言うなよ。好きだろ、ここ」  意地悪なことを言う博臣の呼吸も乱れている。眉間には皺が寄っていて、歯を固く食いしばった表情は、限界が近い時のものだ。  自分のことを貫きながら、博臣が必死に快感に耐えている。そのことを強く実感すると、胸の内側が愛しさでいっぱいになった。行為中に心をくすぐられると、身体と直結した反応が身体に現れるものだ。ときめきを感じた反動で、博臣のものを咥え込んだ司の後孔がきゅっと締まった。 「っ……!」  不意を突かれた博臣が、爪の先で引っ掻くように司の陰茎の鈴口を弾く。その衝撃に耐えることができなくて、司はとうとう絶頂を迎えた。 「あぁ……っ」  司が射精してもなお、博臣は動きを止めない。というよりは止められないのだろう。射精の反動できつく締め付けられて、博臣は呻くように声を漏らしながら律動を続ける。  ほどなくして、博臣はゴムの中に自身の精を解き放った。自分の中で博臣のものが脈打つのを感じながら、司の全身からじわじわと力が抜けていく。  身体が沈んでいく感覚に身を任せていると、息を整えたばかりの博臣が覆い被さってきて、そのままキスをされた。 「ん……」  瞳を閉じてそれを受け入れると、頬に手が添えられる。薄い硝子に触れるような優しい手つきで撫でられると、自分が犬になったような気分だった。ご主人様のことが大好きで、寵愛を受けた喜びを尻尾を振って表現する、従順な犬。しばし気まぐれな黒猫のようだと形容される司のこんな姿を、いったい誰が想像することができようか。  こんな姿、博臣以外の誰にも見せてやるものか。甘い倦怠感に包まれながら、司はそう思うのだった

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