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強く 抱きしめて 3
ドアを閉めて玄関で靴を脱ぎながら、走ってくるボクを見て、一重の目を更に細めて、薄い口唇が笑って、少し太めの眉を下げて、剛さんがにっこりと微笑んだ。
「ただいま」
「お帰りなさい!」
エプロンをつけたままの格好で、ボクはそのままの勢いで剛さんに抱きついた。全身を投げ出すように首にしがみつくボクを、剛さんは軽く受け止めると、しっかりと背中をきつく抱きしめてくれる。
剛さんの首筋に顔を埋める。
少しだけ汗の匂い。
剛さんが一生懸命働いてきた、匂い。
出会った時から、大好きな匂い。
剛さんはぎゅっと一瞬きつく抱きしめてから、そっとボクの体を離す。
「いい匂いがする・・・お腹空いた」
にこにこ微笑いながらそう言うと、ボクの額にそっとキスをしてくれる。
ボクは剛さんの首にしがみついていた腕を離して、満面の笑顔になって、
「今日は寒いからお鍋にしました」
「お、いいね。じゃあ着替えてくるよ」
「はい!」
ボクは剛さんから離れて、キッチンへ戻る。
剛さんは手洗いうがいをして、着ていたスーツから部屋着のジーパンと黒いセーターに着替えて、ダイニングルームに入ってきた。
剛さんが着替えている間に食材を土鍋に投入して、煮えてきたところで出てきた灰汁(あく)を取っていた。
ボクはいつもの席に座った剛さんに、
「ビール飲みます?」
と訊いた。剛さんは嬉しそうにお鍋を見た後、顔を上げてボクを見ると軽く頷いた。
「外は寒かったけど、お鍋だから、ビールがいい」
「ちょっと待って下さい」
ボクは冷蔵庫から冷えた缶ビールと、ビール用のグラスを取ってくると、剛さんの前に置く。缶のふたを開けて、剛さんが反射的に持ち上げたグラスにビールを注ぐ。
ボクは全くお酒が飲めないので、自分用にウーロン茶を用意しておいた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
グラスを合わせて、チンという軽い音を立てる。
剛さんはビールを一口飲むと、美味しそうに息を吐いて、ボクを見てにこにこ笑ってくれる。
それからはお鍋が煮えるまで、剛さんが今日交番であった出来事を話してくれて、ボクはそれを聞きながらお鍋の世話をしていた。
ようやく煮えたお鍋を取り皿に取って剛さんに差し出す。
野菜とお肉をバランス良く入れたお皿を、
「ありがとう」
剛さんはそう言うと、嬉しそうに微笑んで取り皿を受け取る。
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