3 / 24

強く 抱きしめて 3

ドアを閉めて玄関で靴を脱ぎながら、走ってくるボクを見て、一重の目を更に細めて、薄い口唇が笑って、少し太めの眉を下げて、剛さんがにっこりと微笑んだ。 「ただいま」 「お帰りなさい!」 エプロンをつけたままの格好で、ボクはそのままの勢いで剛さんに抱きついた。全身を投げ出すように首にしがみつくボクを、剛さんは軽く受け止めると、しっかりと背中をきつく抱きしめてくれる。 剛さんの首筋に顔を埋める。 少しだけ汗の匂い。 剛さんが一生懸命働いてきた、匂い。 出会った時から、大好きな匂い。 剛さんはぎゅっと一瞬きつく抱きしめてから、そっとボクの体を離す。 「いい匂いがする・・・お腹空いた」 にこにこ微笑いながらそう言うと、ボクの額にそっとキスをしてくれる。 ボクは剛さんの首にしがみついていた腕を離して、満面の笑顔になって、 「今日は寒いからお鍋にしました」 「お、いいね。じゃあ着替えてくるよ」 「はい!」 ボクは剛さんから離れて、キッチンへ戻る。 剛さんは手洗いうがいをして、着ていたスーツから部屋着のジーパンと黒いセーターに着替えて、ダイニングルームに入ってきた。 剛さんが着替えている間に食材を土鍋に投入して、煮えてきたところで出てきた灰汁(あく)を取っていた。 ボクはいつもの席に座った剛さんに、 「ビール飲みます?」 と訊いた。剛さんは嬉しそうにお鍋を見た後、顔を上げてボクを見ると軽く頷いた。 「外は寒かったけど、お鍋だから、ビールがいい」 「ちょっと待って下さい」 ボクは冷蔵庫から冷えた缶ビールと、ビール用のグラスを取ってくると、剛さんの前に置く。缶のふたを開けて、剛さんが反射的に持ち上げたグラスにビールを注ぐ。 ボクは全くお酒が飲めないので、自分用にウーロン茶を用意しておいた。 「お疲れ様です」 「お疲れ様」 グラスを合わせて、チンという軽い音を立てる。 剛さんはビールを一口飲むと、美味しそうに息を吐いて、ボクを見てにこにこ笑ってくれる。 それからはお鍋が煮えるまで、剛さんが今日交番であった出来事を話してくれて、ボクはそれを聞きながらお鍋の世話をしていた。 ようやく煮えたお鍋を取り皿に取って剛さんに差し出す。 野菜とお肉をバランス良く入れたお皿を、 「ありがとう」 剛さんはそう言うと、嬉しそうに微笑んで取り皿を受け取る。

ともだちにシェアしよう!