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強く 抱きしめて 10
「お義父さんと千都星の親子関係のDNA鑑定を、やってみてもいいかと思ってるんだ。もちろんオレはちゃんと親子だと信じてるけど、お義父さんは疑ってるだろう?」
「え・・?あ・・・」
「千都星がお義父さんの息子だって、はっきりさせるには、これしかないと思うんだ」
想定外の言葉だった。
そんなことを剛さんが考えているなんて、思いもしなかった。
というか・・・そんなこと、考えないで欲しかった・・・。
ボクは剛さんの真っ直ぐな瞳を見ていられなくって、思わず目をそらした。
「そんなこと・・・」
そんなことボクだってわかってる。
何度も何度も考えた。
はっきりさせてすっきりした方がいいって、わかってる!!
わかってるけど。
「そんなこと・・・」
恐い。
恐くてできないんです。
だって、もし、もしも、親子じゃないって結果が出たら?
お父さんと親子じゃないって、科学で証明されてしまったら?
もう何の希望も持てなくなる・・・。
ボクが大人になって、ちゃんとまともに働くようになったら、もしかしたら、お父さんがボクを認めてくれるかもしれない。
ボクに笑いかけてくれるかもしれない。
お母さんも、ボクを抱きしめてくれるかもしれない。
そんな淡い希望すら、断ち切られる・・・。
恐い。
嫌だ。
そんなの嫌だ!!
何で・・・何でそんなこと言うの?!
それは今でなきゃいけないことなの?!
ボクはお箸を握り締めたまま、頭を振って拒絶した。
何度も何度も頭をふって、剛さんの提案を拒否し続けた。
テーブルに置いたその手を、不意に暖かい大きな手で握りしめられる。
「大丈夫」
低くて暖かい声が上から降り注ぐ。
ボクは恐る恐る顔を上げる。
席を立ってボクの隣に立っている剛さんが、ボクの手を強く握り締めて、微笑んでいた。
「大丈夫。絶対に親子だから。千都星は顔はお義母さんそっくりで、性格はお義父さんそっくりだから」
「でも・・・もし、もし違ったら・・・」
「もし、万が一があっても、オレは傍にいる。ずっと、ずっと千都星の傍にいる」
「剛さん・・・」
「一人じゃないよ。大丈夫」
優しいけれど、力強い微笑み。
剛さんがぎゅーっと、強く手を握ってくれる。
剛さんの優しい瞳が、ボクだけを見てくれている。
ああ・・そうだ・・剛さんがいてくれる。
傍にいてくれる。
ボクはもう、一人じゃなかった。
ひとりぼっちで泣いている、子供じゃなかった。
前に、進まなきゃ。
わだかまりを一つずつ取り除いて、乗り越えて、進まなきゃ。
大丈夫。
剛さんがいる。
ずっと、ずっとボクの隣に、いてくれる人。
やっと見つけた、たった一人の人。
ボクは剛さんを見上げたまま、にっこりと微笑んだ。
「うん・・・そうだよね。わかった・・・鑑定やってみる」
剛さんは安心したように肩を落とすと、そっと顔を近づけてきた。
そのまま吐息が触れる距離まで近づいて、ボクは瞳を閉じる。
剛さんの、温かい口唇が、そっと触れた。
触れるだけの口吻けが、酷く愛おしかった。
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