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強く 抱きしめて 11
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「いきなり何の用なの?」
大女優、織懸千景(おりかけちかげ)が、ものすごく不機嫌そうに、その綺麗な柳眉(りゅうび)を寄せて、ボクを一瞥(いちべつ)した。
ここはお母さんが暮らす都内の高級マンション。
家政婦さんの案内で、そのリビングに通されたボクと剛さんは、少し緊張しながら豪奢(ごうしゃ)な本皮の黒革のソファに座って、お母さんが現れるのを待っていた。
剛さんの勧めで親子鑑定をすることを決めたボクは、自分で色々調べて鑑定してくれる専門の機関に申し込みをしようと思っていた。
でもそれは、両親が承諾してくれないと全く意味がないので。
重い気持ちを奮(ふる)い立たせて、まずはお母さんのマネージャーさんに連絡をして、忙しいなかで時間を作ってもらい、こうして直接話しをしにきていた。
お母さんは電話で用件を済ませようとしたけど、そんなお手軽に済ませられる話しじゃないから、食い下がって時間を作ってもらった。
リビングに入ってきたお母さんは、開口一番そう言うと、寝起きなのか白くて光沢の強いさらっとした絹のネグリジェに、アイボリー色のガウンを羽織った格好で、ボク達の向かいの同じ造りのソファに座る。
寝起きのお母さんが不機嫌なことは、ボクは熟知していたので、少し萎縮(いしゅく)してしまう。
いつもこうやって顔色を伺(うかが)って接していたので、まだその癖(くせ)が抜けない。
眠そうな表情をしていても、大きなつぶらな瞳と、すらりと通った鼻筋、厚すぎず薄すぎない官能的な真っ赤な口唇は綺麗で、肌もきめ細やかで艶(つや)やかでハリがあり、とても40歳近いとは思えない。
ボクは極度に緊張が増してしまい、マネージャーさんに連絡してせっかくこうして会える約束を取り付けてもらったのに、何を言ったらいいのかわからなくなってしまっていた。
やっぱり電話で用件を伝えて済ませれば良かったかも・・・。
「あの・・・その・・・」
意味のない言葉を連(つら)ねるボクを、お母さんは眉根を寄せたままの顔で、軽く睨(にら)み付ける。
「何?さっさと終わらせてちょうだい」
「その・・・」
「初めてお目にかかります。今日は貴重な時間を割(さ)いて下さって、有り難う御座います。オレは千都星さんとお付き合いさせてもらっている、田所剛と申します。今、一緒に住んでます。実は折り入ってお願いがあります」
急に隣に座る剛さんが口を開いた。
丁寧に毅然(きぜん)と話す剛さんを、お母さんは少し興味深げに目をやる。
びっくりして剛さんを見ると、堂々とした態度で背筋も真っ直ぐなままの綺麗な姿勢で、お母さんを真正面から見つめていた。
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