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強く 抱きしめて 13

「生んでくれて・・・有り難う御座います・・・こんな気持ちになるなんて思ってなかった。・・・少し前までは何で生んだのかと恨んだ。傍にいてくれないのに何で育てたのか・・・ずっと嫌いだった・・・生んで欲しくなかったって思ってた」 「そう・・・」 顔は見えないけれども、お母さんの少し気落ちしたような小さな声。 「でも、今は違うんです。剛さんと出会って、剛さんを好きになって・・・生まれてきて良かったって・・・生んでくれて有難うって・・・そう、言いたかったんです」 「そう・・・」 お母さんはそれしか言わなかった。 頭を下げているので、お母さんがどんな表情をしているのか、全くわからないけど。 怒っていないことは、少し嬉しそうな感じは。 伝わってきた。 「『生涯ただ一人の人』を・・・見つけたのね・・・」 「え?」 意外な言葉に、ボクも剛さんも頭を上げる。 お母さんは今まで見たことのない、ううん、ボクが小さい頃に見せてくれていた、綺麗な優しい笑顔を浮かべていた。 「何があっても愛している人、命をかけて信じて愛せる人・・・見つけたのね」 「うん・・・見つけた・・・」 お母さんの真っ赤な口唇が、ゆっくりと動く。 「私にとっては、お父さんが『生涯ただ一人の人』よ」 お母さんは、とても、とても綺麗な少女のような笑みをして、陶然(とうぜん)と呟(つぶや)いた。 その瞳はボクのことも、剛さんのことも見ていなかった。 遠く、何処かにいる人を、見ていた。 お母さんの突然の言葉に、ボクは驚くことしかできなかった。 「え・・・?!」 「愛してるのはお父さんと貴方だけよ・・・親子鑑定、受けるわ」 「えええ?!」 「貴方は絶対に、お父さんの子だもの」 何の不安もないような、純真無垢(じゅんしんむく)な笑顔で、お母さんはそう言った。 さっきまで色香(いろか)の漂う大人の女性だったのが、一転、処女のように純粋な表情になって、ボクを見つめている。 その変化に背筋がゾッと、した。 何処から何処までが演技なのか本心なのか、さっぱりわからない。 生まれた時からこの人を見ているけれど、どれが本心でどこまで演技なのか、本気でわからない。 演技をしていない、本当の素の顔がこの人にはあるのかと、不安になるくらいだった。 剛さんはお母さんの言葉を受けて、再度深く頭を下げた。 「ありがとうございます。鑑定の詳細についてはまた後日、連絡致します」 始終(しじゅう)丁寧に話す剛さんを、お母さんは面白そうに見つめて、くすくす笑いながら話しかける。

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